「ここを管理している方はお見えにならないのですか?」

「いや、いるにはいるが、あまり熱心ではなくてな。だが心の優しいやつだよ」

「その方は月読様のことが見えるのですか?」

「見えないな。早々見える者はおらぬ。私を見たものはお主が初めてではないか?」

「えっ、そうなのですか? それは……お寂しいですね」

月読様はきょとんとする。美しい顔でもきょとんとするんだと、私はまじまじと見つめてしまった。そして、ふと視線が交わる。

「……それは、考えたことがなかった」

月読様はふっと目を細め、私の頭にぽんと優しく手を置く。

「そうか、だからお主と話すのが楽しいのだろうな」

瞬間、胸が締めつけられ苦しくなって、心臓がドクドクと脈を打つ。何だろう、この気持ち。今まで経験したこともないくらい、ドキドキしてどうしようもなくなって――

顔が熱い。旦那様と行為に及ぶ時すらこんなにも緊張したことはないというのに。

「その花はどこに植える? 手伝おう」

「……ありがとう……ございます」

泣きたくなるくらいに優しい月読様は私の腕からキキョウの束を取る。土も付いていて汚れてしまうのに、そんなことはおかまいなしにと代わりに持ってくれた。

「この辺りはどうだ?」

「はい、いいと思います」

手が土まみれになる。
月読様はそれすらも、楽しそうにやってくれる。
本当に神様なんだよね……?

「萎れてしまっているが、また咲くのか?」

「そうですね。きちんと育てれば、また息を吹き返すと思います」

「そうか、では水を持ってこよう」

またすっと音もなくどこかに消えて、すっと戻って来た。手には桶と柄杓を携えている。

「綺麗に咲くといいな」

そう微笑んで、月読様は水を撒いた。月明かりに照らされて、キラキラと輝く。まるで金平糖のように水が舞い、萎れていたキキョウがぱっと花開いた。