「僕は、あなたの妹さんのことは昔から知っています。あの子は優しくて賢い人ですね。羽田さん。あなたも患者さんからの慕われていますね。あなたさえ良ければと思って招待したんですよ」
こちらを見据える村上の瞳の奥が怪しく蠢いたような気がする。羽田の襟足が毛羽立ってきた。
午後三時になろうとしている。
「祖父を生き返らせるの手伝って下さるのなら、沙織さんに視力をさし上げますよ」
不意に、どうぞと言いながら村上がチョコレートムースを差し出してきた。
羽田は理解が追いつかなくて混乱していた。
先刻の人魚の話とムースの組み合わせは余りにもチグハグである。しかし、御手製だと思われるムースのチョコレートの香りに誘われて喉を鳴らす。
バームクーヘンも美味しかったが、このムースも美味そうだ。
村上は、違法な手術をした事を誤魔化そうとして壮大なホラ話をふっかけているだけなのかもしれない。
とにかく、村上を怒らせるのも何なので、少し考える時間が欲しい。
「美味しいでしょう。僕の恋人が作ってくれたんですよ」
「はぁ、そうですか」
村上のルックスならば彼女がいて当然だ。
「先生の恋人って素敵な人なんでしょうね」
「ええ。フェルメールが描く女性のように儚げで、いつも哀しそうな顔をしてます。でも、笑うとコスモスの花のように可憐なんです」
なるほど……。青いターバンの少女だな。清楚なのに色っぽい。つまり、そういう事だな。
大いに納得しなから、羽田はムースを一気に食べ尽くす。そして、お茶のおかわりをしようかと考えていると、ふと、壁の一角に血痕のようなものが飛び散っている事に気付いたのだ。
「この血は?」
「山田さんですよ」
キョトンとしていると補足するように言った。
「僕と一緒にここに来ました。もう片方も移植すると言ったら喜んでやってきました」
こちらを見据える村上の瞳の奥が怪しく蠢いたような気がする。羽田の襟足が毛羽立ってきた。
午後三時になろうとしている。
「祖父を生き返らせるの手伝って下さるのなら、沙織さんに視力をさし上げますよ」
不意に、どうぞと言いながら村上がチョコレートムースを差し出してきた。
羽田は理解が追いつかなくて混乱していた。
先刻の人魚の話とムースの組み合わせは余りにもチグハグである。しかし、御手製だと思われるムースのチョコレートの香りに誘われて喉を鳴らす。
バームクーヘンも美味しかったが、このムースも美味そうだ。
村上は、違法な手術をした事を誤魔化そうとして壮大なホラ話をふっかけているだけなのかもしれない。
とにかく、村上を怒らせるのも何なので、少し考える時間が欲しい。
「美味しいでしょう。僕の恋人が作ってくれたんですよ」
「はぁ、そうですか」
村上のルックスならば彼女がいて当然だ。
「先生の恋人って素敵な人なんでしょうね」
「ええ。フェルメールが描く女性のように儚げで、いつも哀しそうな顔をしてます。でも、笑うとコスモスの花のように可憐なんです」
なるほど……。青いターバンの少女だな。清楚なのに色っぽい。つまり、そういう事だな。
大いに納得しなから、羽田はムースを一気に食べ尽くす。そして、お茶のおかわりをしようかと考えていると、ふと、壁の一角に血痕のようなものが飛び散っている事に気付いたのだ。
「この血は?」
「山田さんですよ」
キョトンとしていると補足するように言った。
「僕と一緒にここに来ました。もう片方も移植すると言ったら喜んでやってきました」
