しかも、彼の手には目玉の入った小瓶が握られていて、テーブルの上に置いている。
「これは海水ですよ。こうやって瀬戸内海の海水に浸けていたらフレッシュに保てるんです」
 どう見ても、銭湯の風呂上りに飲むフルーツ牛乳の瓶のように見えるのだが……。
 海水に浸された二個の目玉に呆然となる。
 けれども、村上は楽しそうに目を細めながら言う。
「僕は、祖父と一緒にキャンプに行くのが大好きでした。祖父は、もしも、震災が起きても生きていけるように、火の起こし方や魚の採り方を教えてくれました」
 キャンプファイヤーの火を囲む少年のようなキラキラとした顔をしている。
 波立つ気持ちを押さえ込みながらも、村上の顔を見つめ続けるしかなかった。
「祖父は色んな体験をしてきました。塩の道には狼が出ます。獣も塩を狼が欲しがるんですね。塩を運ぶのは牛です。細い道は牛の方が歩きやすいそうです。祖父は生きた百科事典です。まだまだ聞きたい事があるのに逝ってしまった。僕の両親は高校生の時に亡くなっています。僕にとって祖父が唯一の肉親なんです。もう一度、祖父に会いたいのです」
「……」
 だからって、後生大事に脳みそを保存してどうするんだ?
 いや、そもそも、この脳みそは教祖のものなのか? この人は狂っているのだろうか……。いや、他にも胸をザラつかせるものがある。
(なぜ、眼球が二つあるんだ?)
 もしも、山田に目玉を嵌めた事が真実ならば、ここに二個あるのは、どう考えてもおかしいではないか。
 目玉や脳みそも精巧な目玉のレプリカなのかもしれない。
 食品サンプルがあれ程までにリアルに作れるのなら、目玉も作れるだろう。
(気味悪がって、オレが逃げ出すのを期待しているのか?)
 羽田が顔を引き攣らせているというのに、村上はくだげような微笑をこぼしている。