クロムは原子番号24、元素記号Crで表される金属元素の一つで、金属光沢を伴う銀白色をしています。
硬度・耐食性ともに非常に高く、通称「クロモリ」と呼ばれ軽くて強い素材として知られるクロームモリブデン鋼や、産業を問わず幅広い用途に用いられるステンレス鋼の原料としての合金用途のほか、クロムメッキ加工用途でも産業上非常に重要な役割を占めています。
また、伊呂金山より産出する未精錬のクロム鉄鉱は耐火レンガとしても用いられており、1500度以上の高温に耐えることが出来るクロム煉瓦は冶金用の均熱炉などに使用されています。
自然界に存在するクロム鉱石は、その鉱石内のクロム・鉄・アルミニウムの含有量に応じて高クロム鉱石、高鉄クロム鉱石、高アルミニウムクロム鉱石に分類されます。冶金用途で利用できる高品質なクロムは主に高クロム鉱石か高鉄クロムより産出し、伊呂金鉱山に存在しているのもこの高クロム鉱石です。
クロム鉱床はその鉱石の形態から層状クロム鉱床とポディフォームクロム鉱床に分類されます。層状鉱床はマグマだまりからクロム鉄鉱が温度の低下に伴って晶出し、重力によって沈下しながら結晶を成長させていくことで発生しますが、、伊呂金鉱山にみられるポディフォームクロム鉱床は、マグマを吹き出しきって枯渇したマントルに他のマグマが貫入することにより、マントルの壁岩とマグマが反応してクロムが生成することで発生するものと考えられています。
一般に層状鉱床に比してポディフォーム鉱床は鉱石中のクロム比率が高く、良質なクロムを産出することで知られています。ただし、その代償として採掘が難しく、コストがかさみやすいという短所を持ちます。ポディフォーム鉱床を持つ伊呂金鉱山についてもこの性質は同様ですが、荻畑金属鉱業が世界に誇る採掘技術高水準のクロム鉱を高効率で採掘することを可能にしています。
クロム鉱以外のクロムを含有する鉱物としてはルビーやエメラルドなどが非常に有名であり、これらはその特徴的な発色のメカニズムにクロムが関わっています。
ルビーとサファイアは同じコランダムという鉱物からなる鉱石ですが、コランダム中の微量のアルミニウムイオンがクロムイオンに置き換わることでピンク色の発色を示し、全体の1-2%程度入れ替わることでルビーの美しい赤色の発色を示します。
また、エメラルドはアクアマリンと同じ組成からなる鉱石ですが、不純物としてクロムを含むことが緑色の発色の条件となっています。このエメラルドの発色メカニズムは、伊呂金鉱山のクロム鉱床から採掘される灰クロム柘榴石(ウヴァロヴァイト)とも同じものであると考えられています。
ちなみに、自然界に存在するクロム鉄鉱に含まれるクロムはほとんどが2価あるいは3価(酸化数が2あるいは3)のものであり、これらは人間に基本的に無害であるばかりか、必須微量元素としても知られています。
ただし、かつて工業用途に多く用いられた6価のクロムは人体に対する毒性を持ち、発がん性をはじめとして様々な健康被害の原因となります。
この6価クロムはごくわずかな比率で自然な土壌中にも存在しており、クロム鉱床の浸食などで流出するリスクがあります。
こうした危険から、クロム鉱を採掘する事業者は周辺環境のモニタリングなどを適切に行う社会的責任を負うこととなります。弊社は国内で鉱毒問題が大きく取り上げられる以前からこうした活動に力を入れており、地域環境に配慮した持続可能な採掘活動を実施しています。