「……………………」
僕は彼女を抱き抱えながら、辺りを見回した。
周りにはそう、彼女の仲間と思わしき四人が、地面に倒れて居るのだ。
「どうしよう……」
抱き抱えている彼女を見る。
「でも、その辺に寝かせるのもなぁ……」
倒れている人を診たいのは山々なのだが、地面は彼女を寝かせるには凸凹し過ぎている。
ふむ、どうしたものか……。
そう、悩んでいる時だった。
火緋色の炎が燃え盛り、倒れている一人の身体を灰と化したのだ。
「は……? なんだアレ……」
信じられない光景に驚愕した。
空いた口が塞がらないとはまさに、この様なことを言うのだろう……。
だがしかし、呆けている場合では無いのだ。
気を取り直した僕は、彼女を優しく地面へと寝かせ、燃えている人へと駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
服が、肉が、血が、骨が焼けていく。
近づく度に血腥い臭いが強くなり、鼻腔の奥を掠っては離れない。
「アッツ……!」
両手で顔面を防ぐ。
火元から三メートル離れている所なのに、肌が爛れそうなくらいに熱い。
(くっ……! もう手遅れなのか……!?)
と、そう思ったときだった。
男か女かは分からないが、燃えている背の低い人物。
その人物の燃え残っていた身体の全てが、一瞬で灰となって崩れ落ち、轟々しい光を放ったのだ。
「うわっ?!」
眩しい……眩しくて前が見えない。
瞳を瞼で覆い隠し、光のダメージを咄嗟に守った。
ジリジリと燃える火の音が、徐々に小さくなる。
それに伴い、肌に伝わる温度も低くなったのだ。
やがて、瞼越しに伝わる光と肌に直接伝わる熱の、その存在が共に消失する。
「………………っ?」
その事実に恐る恐る瞳を開くと、目の前で起こっている現実に驚愕した。
今日は驚くことの連続だ。
死んだことに始まり、女神様に転生させられ、転生後直ぐに化け物と戦い、そして今、──不死鳥を見ている。
「生き、返ってる……?」
僕の目の前には今、赤髪赤目の可愛らしい女の子が、その姿を炎の中から顕にしていた。
見た感じ、身体は傷一つ無い状態であり、服ですらも燃えた後を感じさせない状態。
そんな、異様とも言える状態で、僕の目の前に存在して居るのだ。
「は、はは……は…………」
異世界と日本。
その常識が違うと思っていたつもりだったが、まさか、人が不死鳥の如く生き返るとは……
「異世界って……すげぇ…………」
そんな言葉しか、これを名状出来るものが無い。
もはや呆れ半分で、苦笑いを浮かべている程だ。
しかし、これだけでは終わらない。
間抜け面の僕が、苦笑いを浮かべているときだった。
倒れていた筈の人達四人が、その息を吹き返して、起き上がったのだ。
「ケホッケホッケホッ……状況は、どうなってるの?」
赤髪赤目の女の子が、咳き込みながら起き上がった。
「うっ……頭が痛いのお…………」
髭を蓄えているガタイの良いオジサンが、その頭を抑えながら起き上がった。
「ヘファイストスか……余は死んだ筈じゃが……生きてるってことは、エマの魔法かのう……」
耳が長い銀髪碧眼の美人が、脱力しているのか、壁に寄り添いながら起き上がった。
「だ……団長…………団長………………」
虚ろの目をしている金髪碧眼の男子。
その男子は歯を食い縛って地を這う。
寝ている彼女の方へと、徐々に、徐々に。
僕はその光景を、ただ眺めることしか出来なかった。
あまりにも一途で献身的で、自分を厭わない、真の愛情がそこにはあったからだ。
どうして二人の間に、ただ一目惚れしただけの僕が、割って入って水を差せようか……。
「……………………………………」
得体の知れない感情が波打った。
ポツポツと、水滴が地面に滴り落ちる。
──僕は、部外者だ。
そう、感傷に浸っているときだった。
トントンとした感触が、僕の肩に伝わった。
「お主、何者じゃ?」
優しい声の裏側に、何処か警戒心を感じる男声。
その声に振り向いた僕の目には、儚くて切ない、そんな無意味な涙が溢れていた……。
「なっ!? 何故泣いておる?!」
あぁ……この人は、優しい人だ。
警戒心はありつつも、本心で心配してくれている。
「い、いえ……何でも無いんです……えへへ」
頬を爪でポリポリとかいた。
僕の目の前には、優しいオジサンと、徐ろに警戒をしている耳の長い美人が居て……。
そして僕の後ろには、寝ている彼女と、そんな彼女を心配しているイケメン、と不死鳥系女子が居るのだ。
それらの人々は、身体に痛々しい傷を負い、今にも目の前の美人が倒れそうにふらついている。
「そー言えば、僕が何者か……ですよね? それについては皆さんが元気になってから、色々と説明しますね」
袖で涙を拭き、指輪を構える。
右手の人差し指に嵌ってる指輪に、辺りの大気を急速吸収させる感覚……。
それを研ぎ澄ませ、魔術の神輪に相応の魔素及び、変換された魔力が蓄積させたとき。
自分が仲間だと思っている対象に、超広範囲の回復を可能とするのだ。
「超治癒魔法」
部屋に居る僕以外の五人の身体が、瞬間的に癒える。
まぁ……あの不死鳥系女の子は、最初から傷が無かったから意味無いと思うけど……。
と、そんなことを思っていると。
耳の長い美人と優しいオジサンが、張り詰めていた緊張の糸が解けたのか、脱力して座り込む。
「はぁぁぁぁ…………アクスレピオスをワシらに使えるってことは、敵意は無いってことじゃな…………」
「その通りじゃなヘファイストス」
この優しいオジサンの名前は、ヘファイストスと言うのか。
「余も一回死んだりで、体力がきつぅてきつぅて……今直ぐ寝たい……のう…………」
ウトウトしながら言った耳の長い美人は、やがて、優しいオジサンの肩に頭を寄り添い、眠りについた。
そんな、何処か微笑ましい光景に僕がはにかんだ。
すると、ヘファイストスさんが寝ている耳の長い美人を優しく抱き抱え、立ち上がった。
「そいじゃ、コッチに付いて来てくれ。お主が言った通り色々と説明して欲しいからのお」
―――
【世界観ちょい足しコーナー】
〇超治癒魔法
この魔法には、四段階の効果がある。
一段階目。──自分のみの治癒。
二段階目。──仲間と認識した者も含めた、全体治癒。
三段階目。──個人の蘇生。
四段階目。──仲間と認識した者全体の蘇生。
段階が上がる毎に、その効力と消費魔力が上がるのだ。
(全体系の回復は人数によって消費魔力が増える)
〇治癒魔法
アクスレピオスとは違い、言わば健康状態の回復をする治癒魔法である。毒や麻痺等の状態異常に加え、吐き気や頭痛等の症状に、肌年齢の若返り等々が出来るのだ。戦闘でよく利用するのがアクレピオスだとすると、日常でよく利用するのがヒギエイアと言える。
〇エマとプロメテウス以外は、一回は死んだことあるよ。
※An〇therなら普通に死んでたね!