意識が覚醒し、闇に一筋の光が差した。
ボヤけて掠れた視界は、徐々に色を付けていく。
目に映るのは、左に直角した世界。
それは、僕が半胎児型で寝ていることを示唆し。そんな僕の背中には今、柔く、温かい感触が在るのだ。
その感触からは何かが脈打つ感覚があり、それを感じていることに一種の安らぎすらもある。
「んぅぅ~………………」
眠気に唸った僕は、感触の方へと身体を向けた。
するとそこには、寝息を立てて眠っている、愛らしい表情のエマが居たのだ。
そんなエマは下着しか身に付けておらず、毛布から身体がはだけているのを見て、毛布をそっと掛け直した。
「ふふっ。可愛い……」
エマの頭を撫で、柔く微笑んだ。
そんな僕は心とも無く、──エマを抱き寄せた。
肌と肌が触れ合う、温かな感触。
それは僕の心を安らげつつ、同時に、僕を淫らな気持ちにさせたのだ。
(エマ……可愛い。好き、大好き、愛してる。僕と同じベッドで寝てるってことは、キスくらい良いよね……?)
どうしようも無い愛欲を抱いた。
その唇を、彼女の唇へと近づけた。
しかしそのとき、ふと我に返った。
すうぅぅぅぅぅぅぅぅ……………………。
んんんんんんんん??????????
(僕が、エマさんと、一緒に、寝ている、…………?)
寝惚けた頭に、すーっと血の気が引いていく。
やがて、状況判断を終えて全てを理解したとき、募りに募った過去の蛮行と現状が明確になり、──吃驚した。
「うわあああああああああ!!!!!!!」
ベッドから転げ落ち、テーブルに頭を打った。
「いてて…………あれ? 痛くない?」
普通ならばテーブルに頭を打ったとき、それ相応の痛みに襲われる筈なのだが……。
これまたどうして、痛みが微塵も無いのだ。
「んー……僕の身体の感覚、バグったのかなぁ……?」
自分の頭を撫で、僕が疑問を呈しているときだ。
僕の声で起こしてしまったであろうエマが、その目を擦りながらベッドから起き上がったのだ。
「んっ、ふぁぁぁぁぁ………おはよう、ハルト…………」
「お、おはよう…………ヌッ!!??」
なんと言うことでしょう……。
何色にも染まらぬ上下両方の純白が、その姿を突如として僕の目の前に、顕したではありませんか……。
「あっあっあっあっあっ…………ブハー!!」
あまりの美しさに感極まってしまった僕は、その度し難い興奮故に鼻血を吹き、そして倒れた……。
「どうしたのだハルト!!??」
殺虫剤を撒かれて倒れた虫の如く、その手足をピクピクさせる僕に、エマは急いで駆け寄って来てくれた。
だがしかし、追い討ちとでも言おうか……。
此方に駆け寄ったときに揺れたエマのアレが、凄く凄かったためだけに、誇り高き童帝の僕には刺激が強く……
「ど……童帝オタクには、刺激がつよ……みっ」
そう言って、死んでしまった……。
「ハ、ハルトーーーーー!!!!!!」
こんなんで死ぬ訳無いだろ!
いい加減にしろよ僕!!
「ふぅ……死にかけた」
「ハ、ハルトーーーーー!!!???」
いや……鼻血の出過ぎで、普通に死ぬとこだったわ。
ハルトの死因! 女子の下着を見て興奮し、出血死!
とか……普通にヤバ過ぎて、親に顔向け出来ない……。
と、そんなことを思っていると……。
エマが僕の肩に手を添え、目を見ながら、その心配を呈してくれた。
「ハ、ハルトよ……だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫って鼻血のこと? それなら全然大丈夫だよ!」
大丈夫の意味は分からないが、エマが僕のことを心配してくれているのだ。
そのことが嬉しく、出来る限り元気に答えると、エマは胸をそっと撫で下ろす。
「そ、そっかぁ……昨日のこともあったし、凄くビックリしたぞ……」
「ん? 昨日のことって?」
「・・・ん? 覚えていないのか?」
「んー……部屋に入ったところから、記憶が無いや……」
「そ、そっか……うん。それなら、知らない方が……」
顎に手を当て、ボソッと呟くエマ。
──それなら、知らない方が……。
その言葉の意味は気になるが、今はそれよりも、もっと気になってしまうことがあるのだ。
そう、その気になることと言うのは、──下着である。
「あのー、エマさん……。それよりもですね、寝るときは何時も下着なんです?」
「あ? あぁ……そうだが? それが、どうかしたのか?」
「い、いえ……そのー……下着姿は、意中の男性以外に見せるものではありませんよ…………」
うぅ……顔がアツいよぉ……。
あまりの恥ずかしさに、僕は顔を塞ぎ込んだ。
すると、不思議に思ったらしいエマが、首を傾げながらその口を開く。
「そう言うものなのか……んー、確かに小さい頃はよく、お父様とお風呂に入っていたのだが……最近は、お父様に断られるようになったな……」
「いやそういう問題!?」
「違うのか?」
「違うよ! それにさっ! 意中じゃない男と一緒に寝るのも良くないよ! 変なことが合ったらどうするのさ!」
「変なこと?」
「へ、変なことって言うのは……そ、その……こ、子どもが出来ちゃったりとか!!」
(何言ってんだ馬鹿ヤローー!!! 僕は馬鹿なのか? 大馬鹿ヤローなのか!? すすすす好きな人にこんなことを言うなんて、正気じゃないよ僕!!!)
自虐に対する後悔と羞恥。
それらが脳内でグツグツ煮え滾り、僕の頭はショート寸前だったのだ。
しかしそれは、僕以上に純粋なエマの一言で、オーバーヒートすることになる……。
「ハハハ! ハルトは面白いな! 一緒に寝ただけで子どもが出来る訳無いだろう?」
た、確かに……。
子どもが出来るにはその……
「此処には畑が無いではないか!」
そうそう畑畑……
「えええええええ!!!!????」
「何を驚いているのだ? この世界は滅亡してしまうかも知れない……いや、させないが。私とて王族なのだ。その様なことは小さい頃から、お父様とお母様に教えて貰っているぞ!!」
「おっふ…………」
お、親バカだぁ……。
いや……しかし、学校で教わる筈だ。
そうだ、学校で教わらない訳が無い!
僕だって、学校で知ったんだもん!!
「え? 学校とかでは習わなかったの?」
「あぁ、ソレなんだが……私が登校した日は、何故かその様な授業は無かったのだ。まぁ……私は王族として、一般教養さ知っているからな! 不要だろう!」
お、親バカだぁ……(二回目)。
これは駄目だ……。
教えたら殺されるヤツだ。
「そ、そっかぁ……」
「あぁ! それに実際、子どもが実る畑があるぞ?」
そう言って服を着たエマに連れられ、城の付近を示す地図を見た所、立ち入り禁止区域として本当に合った。
しかも出来たのは、ここ十年くらいのことらしい……。
これが本当なのか、はたまた、親バカ故の蛮行なのかは知らないが、僕はこんなことを思った。
(あ、この王様やべー……)
そうして今日が始まった僕は、エマと二人で『ギルド』なる所と、『騎士団本部』なる所へと行くのだった……。
―――
【可哀想な生き物図鑑No1・ハルト】
ハルト君は可哀想なことに、その容姿から様々な人からモテていたのだが……。女が女から、男が男からハルトを守るとか言う、ハルトからすれば傍迷惑な騎士団が存在し、ハルトの好みそうな性格の人に、様々な嫌がらせをした。その嫌がらせと言うのが、コピペ告白の強制やら、身体部位入りチョコやら、物品盗難やら、リスカの写真やら……であり。その結果として、ハルトが告白にOKしたことは一度も無く、純粋過ぎるハルト君は童帝のままである。ちなみにその騎士団の団長と言うのが、例の腐女子と例の男友達だったのは、ハルトが知らないココだけの話。