『はいこれ、アルテミスさんの弓と短剣』

 あ、やべ……普通に下ろすの忘れてた。

『感謝するぞ、プロメテウス』

「知らない人に抱き抱えられてて、ビックリするよね。ゴメンね……。今下ろすから」

『じゃあ、こっちもっすね。はい、ヘファイストスさん』

「あ、あぁ……」

『おう、ありがとうのお』

 縮こまりながら言うエマの、まるで借りて来た猫の様な姿に萌えた。

『はい、これ。アキレウスの槍と盾』

『ありがとうっす!』

 ずっとこのまま抱き抱えていたいが、それでは、エマに嫌われてしまう……。
 そう思った僕がエマを下ろすと、一瞬だけ照れた表情を見せつつも、直ぐにキリッとした表情になった。

「色々と聞きたいことがあるが、まずは我々フィアナ騎士団と共に、城に来て頂きたい……」

 エマが言葉を紡いでいくと、先程まで武器の交換をしていた面々が、僕の前にやって来た。

「名前も知らぬ者よ。私を運んでくれたこと、我々と助けてくれこと心より」

「「「「「感謝する」」」」」

 感謝の言葉で締め括られると……。
 彼女等は、自分の胸に手を添え、会釈した。
 
 その姿の、何と凛々しいことか……。
 瞳には消えぬ炎の光が宿っており、その雄々しさに思わず身震いしてしまいそうだ。

「い、いえ……こちらこそ?」

 あれー? こーゆーとき、何て言えば良いんだー?
 そんなことを内心で思っていると、エマがクスッと微笑んで言う。

「ふふっ。それでは行こうか、着いて来てくれ」

「はいっ!」

 一歩、また一歩とその歩を進める。
 やがて、その歩が民衆の前まで進むと、民衆は真ん中を空けて道を作ったのだ。

(はえー……すっげ……)

 そう関心していると、青い声が聞こえて来た。

「ねぇイケメンのおにーちゃん! なんで、おひめさまのおふくをきているのぉ?」

 それは、年端もいかない少女の声。
 その純粋とも言える言葉を聞いた六人は歩を止め、そこに居た陽翔以外の人達が、その顔に影を付けた。
 何とも言えない空気感が漂う。
 そんな空気感の中で、この場に居た人達がみんな、心の中で同じことを思ったのだ。
 
『遂に言っちゃったかぁ……』
 
 もしかして僕、ずっとオタTだったの?
 ──エマを抱き抱えてたときも?
 ──カッコよく自己紹介したときも?
 ──エマを助けたときも?
 ──ずっと?
 記憶を、超高速で遡った。

(あ……そう言えば僕。ヘラ様と逢ったときも、このオタTだった様な………………)

 僕の目の前にいる少女が、目をキラキラと輝かせ、僕のことを真っ直ぐに見ている。

(まずいまずいまずいまずいまずい。何? この年端もいかない少女に、「これオタTなんだよねーwww」って、言えば良いの? バカじゃないでしょ!! そんなん言える訳無いって!! あっ……そうだ!!)
 
「このTシャツ可愛いでしょ?」

『・・・あっ、終わったな…………』
 
(って……おいいいいいいいい!!!! 何をバカなこと口走ってんだよ僕!! みんなから、めちゃくちゃドン引きされてるわ!! もう駄目だァ……お終いだァ…………)

 冷や汗をかき、顔に影を付けている僕。
 そんな、絶望を隠しきれてない僕に、小さな女神が微笑んでくれたのだ。

「うんっ! かわいい!!」

 それは、裏の無い屈託とした笑み。
 その笑みはまさに、人類を光へと導く、光の女神そのものであった。

『ホッ………………』

 女神の純粋さに、周囲の全員がホッとしていると、女神が続け様にニコリと笑う。

「イケメンって、なにきてもにあうんだね!!」

「あ、ありがとうね…………」

 複雑な気持ちの僕が、純粋な女神の頭を撫でた。
 撫でられている女神は、気持ち良さそうに、その目を細めている。

「そ、それじゃあ……なんだ……城に行くぞ…………」

「は、はいっ!」
 
 そんな、一種のコミュニケーションを終えた僕達は、エマの声で再度足を進めた。
 人を掻き分け、坂を登り、階段を上がる。
 そうした道の末に、僕達は『グレース城』の目の前へと着いて居た。
 
 このときの僕は、まだ知らない。
 僕が民衆から、『姫Tのイケメンおにーちゃん』と、そう言われていることを……。