ダンジョン内に転生した僕は、長い様で短いダンジョン内の時を経て、今、地球と同じ青空の下に居る。
そんな僕の目前に広がるは、現代のヨーロッパ諸国を思い浮かべさせる様な、興隆した景色。
その景色には、様々な明かりが存在し、星空と違える様な情景に、僕の目は奪われていた。
「キレイだ……」
この感情は、綺麗な景色を旅行で見たときのモノと、あまり相違無いだろう。
その位の感動が、僕の心を揺れ動かしているのだ。
まぁ……旅行と言うか、異世界なんだけど…………。
と、エマを抱き抱えている僕が見惚れていると、辺りから勢いのある大きな声が聞こえてきた。
『フィアナ騎士団が帰って来たぞーーー!!!』
『キャーーー!! アキレウス様ーーー!! 私の心を槍で突き刺してーーー!!!』
『プロメテウスたん今日も可愛いよーーーー!!!!』
『あらやだちょっと待って! アタシ好みの良い男が居るじゃないの!!♂』
何処からともなく現れた人々が、荒波の様に流れ込み、様々な言葉を此方へと向けている。
その言葉の中には、背筋が凍る様なモノがあり、思わず身震いをしてしまった。
そんな、ドン引いてる僕と違い。他の三人は、何処か呆れた表情をしている。
「アレ程辞めてと言ったんすけどね……」
溜息混じりに言うアキレウス。
「ふぉっふぉっふぉっ。お主らはモテモテじゃのお」
軽快に笑って茶化すヘファイストスさん。
「まぁ、嬉しいっちゃ嬉しいよね……煩いけど。それはそうとさアキレウス、五層突破したこと言う?」
何やら話を変えたプロメテウス。
五層とはおそらく、ダンジョンの、ヒュドラが居た階層のことだろう。
「どうせ、後で知らせることっすからね。煩くて、団長とアルテミスさんが起きそうっすけど……まぁ、良いんじゃないっすかね」
アキレウスが、エマとアルテミスさんを交互に見た。
するとプロメテウスが、アキレウスにサムズアップをして、民衆に手を振る。
「みんなー! ボク達、五層突破したよーー!!」
『………………………………』
元気に言うプロメテウスと、静寂に包まれた民衆。その差異はあまりに、異様だったのだ。
しかし……その静寂は、やがて。先を抑えられたホースの様に膨れ上がり、そして弾けた。
『うおおおおおおおおおお──!!!!!!』
辺りは熱気に包まれ、人々は腕を天に上げて心から舞い上がっている。
その声量は凄まじく、地が揺れているのだと、そう錯覚してしまう程だ。
そんな声量だからか、今まで寝ていたエマとアルテミスさんが、その目を覚ました。
僕の腕にすっぽりと埋まっているエマは、その可愛らしい目をパチクリさせ、辺りを見回す。
「んっ……ここは……?」
「おはようございます、エマさん。ここはダンジョンの外ですよ」
エマの目を見て微笑んだ。
すると、エマが手で目を擦って言う。
「そ、そうか……おはよう」
寝惚けているのか目を細めてて、可愛い。
抱き抱えられてることに気づいて無くて、可愛い。
可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い…………。
駄目だ……。
エマの目を見る度に、エマの声を聞く度に。
──「好き」という感情で、溢れてしまう。
これが恋と言うものなのか?
これではまるで、──洗脳だ。
そんなことを心の何処かで思っていると、隣からアルテミスさんの声が聞こえてきた。
「よよよ、余にお姫様抱っこなど……っ! 不敬であるぞヘファイストス!!」
「ふぉっふぉっふぉっ。それは、すまぬことをしたのお」
「余を離すのじゃ戯け!!」
アルテミスさんが赤面しながら、ヘファイストスさんの顔を手で押している。
それに対してヘファイストスさんは、何処か微笑ましそうにしており、二人の深い仲が伝わってきた。
「仕方無いのお……?」
そう言ったヘファイストスさんが、アルテミスさんを優しく下ろすと、アルテミスさんが恥ずかしそうに俯く。
「でもまぁ、なんだ……。ここまで運んでくれたことは感謝するぞ、ヘファイストス……」
アルテミスさんの手はモジモジとしており、強気なツンデレエルフがデレてるシチュで萌えた。
(ご馳走様です)
心が満腹になった僕がそう言って、心の中で手を合わせていると。
ヘファイストスさんが何と、アルテミスさんの頭に手を添えたのだ。
「アルテミスは律義じゃのお……」
このとき僕の頭は、尊さでパンクした。
くぁw背drftgyふじこlp;@:「」
僕の脳内がふじこってると、辺りから黄色い声が鳴り響いてきた。
『キャーーーーー!!! 尊いわーーー!!!!』
『長寿の幼馴染は業と徳が高くてダメーー!!!』
『俺のヘファイストスさんがNTRたああああ!!!』
ヘファイストスさんとアルテミスさんのカプに、尊みを感じている民衆が騒ぐ中、独りだけ異様な人が居た。
いやお前。それを言うならBSS……しかもホモかよ。
やべ、コレにツッコミをしたことで、あのときのトラウマがががががが…………。
真顔で脳内ツッコミをした僕。
そんな僕の服に、掴まれた感触があり……。
その感触の正体は手で。その手は、赤面しながら僕を見ているエマのだった。
「すまない……そのぉ……下ろして貰えないだろうか」