「ガチもガチっすよ……」
「これってさ、偶然にしては凄いよね! きっとボク達が出会ったのって、運命なんだよ!!」
「そうじゃなぁ……ハルトの件と言い、神様のお導きかも知れないのお」
確かヘラ様が僕を転生させたのも、ダンジョンを攻略させるのが理由だった筈だ。
それが何故僕なのかは分からないが、人間には計り知れない何かがあるのだろう。
「かも、知れないですね……」
「かも知れないも何も、ハルトは女神様の使徒として、ココにやって来たんでしょ? ならさ……きっと、神様がボク達に頑張れって応援してるんだよ!!」
「そうだと良いのお……」
「そうだと良いっすねぇ~。……っと、話が長くなり過ぎたっすね。早くココから出るっすよ」
そう言ったアキレウスが立ち上がると、他の二人も立ち上がったので、僕も釣られて立ち上がった。
すると、副団長のアキレウスが、他のメンバー一人一人に指示を出す。
「ヘファイストスさんの神器は、俺が持つっすから。プロメテウスは、俺とアルテミスさんの神器を」
「OK! じゃあ、落ちてるの取って来るね!」
まずはプロメテウスへの指示。
その指示を聞いたプロメテウスは、サムズアップをして走って行った。
「ヘファイストスさんは、アルテミスさんを」
「了解じゃよ」
次はヘファイストスさんへの指示。
その指示を聞いたヘファイストスさんは、アルテミスさんを抱き抱えた。
「それじゃあハルトは、団長をお願いするっすよ」
「うん、分かったよ」
最後は僕への指示。
その指示を聞いた僕は、エマを抱き抱えた。
鞘がぶつかった音がした。
ガタッとした、そんな耳に残る音だ。
その音が耳を通って脳に到達したとき、僕は自分らしからぬ違和感に気づいた。
(・・・あれ? なんで僕、ナチュラルにお姫様抱っこしてるんだろう……?)
そうなのだ……。
さっきと言い今と言い、何故か、ナチュラルにお姫様抱っこしているのだ。
別にお姫様抱っこ自体は、今までの学校行事とかで何回かやっていたし、問題では無い。
では、何が問題なのか?
それは僕が、何の躊躇いも無く、お姫様抱っこをしているという事実である。
僕は別に、簡単に女性を抱き抱えられる様な、そんなキザ野郎では無い筈なのだ。
それがどうだ?
今の僕はアニメに出てくる様な、格好の良い王子様キャラみたいでは無いか。
この現実が、本来の自分ではあまりに不可解で。
まるで、──自分が自分じゃないみたいだ。
と、そんな懐疑心に襲われていると、明瞭とした声が耳に入って来た。
「何ボーッとしてるんすか、ハルト? みんなの準備終わったんで、ダンジョンから出るっすよ~」
それはアキレウスの声だった。
その声で意識を取り戻した僕が顔を上げると、そこには僕のことを見ている三人が居た。
アキレウスは右手で、大きな斧を肩に担いでいる。
「ハルト、はやく行こ!」
それはプロメテウスの声。
プロメテウスは、槍・盾・弓・短剣を持って、僕に微笑んでいる。
「ハルトよ、何をボーッとしておる? はやく行くぞ」
それはヘファイストスの声。
ヘファイストスさんは、アルテミスさんを両手で抱き抱え、僕に微笑んでいる。
「うん! 今行くー!」
そう言って僕が駆けると、四人並んで前に進む。
「そー言えばさ、結局僕って仲間になれるの?」
「んー……瀕死だったとは言え、ヒュドラを倒せる程の強さがあるっすよね? それが本当なら、大丈夫っすよ」
それが本当なら、って……まぁ、それもそうか。
僕自信もこのチートがヤバいと思いつつ、これだけでやれるのか分からないのだ。
それなのに、他人が僕の強さを知る筈も無いよね。
それはそうと、大丈夫とは何だろうか?
「大丈夫とは?」
「それはねー、多分だけど入団試験じゃないかな?」
「入団試験か……それで入団試験ってさ、何やるの?」
「色々っすね。ステータスを測ったり、実践で試験官と戦ってみたり……」
「まぁ……ハルト場合はそうじゃな。それよりも先に、王様への謁見じゃな」
「あぁ、確かにそうっすね」
「王様と謁見かぁ……大丈夫かなー……」
「王様優しいから大丈夫だよ! それに王様って、団長のお父さんだし!!」
「ガチッ!?」
驚愕の事実を知った僕は、その本人の寝顔を見た。
「エマさんってお姫様だったのかぁ……すげぇ……」
「ふぉっふぉっふぉっ。そうじゃのお……でもワシらからしたら、お姫様よりも団長の方がしっくるわい」
「「分かる」」
ヘファイストスさんの言葉に、アキレウスとプロメテウスが息を合わせて賛同した。
その姿から、エマに対する皆の信頼が伺えて、何処か自分のことの様に嬉しかった。
やがて部屋の奥まで往くと、大きな石の扉を見つけた。
しかしそれは、扉と言うには不完全で、遠目からは壁にしか見れない。
「ワシ一人じゃ、ちと厳しそうじゃからよ。アキレウス手伝ってくれないかのお」
「了解っす!!」
ヘファイストスさんがアルテミスさんを抱えながら、扉の隙間に右手の指を入れ……。
アキレウスが斧を持っていない左手で、扉の隙間に指を入れ……。一気に石の扉を開けた。
開けるときの扉の音は重々しく、その音から、この扉の重量が感じ取れる。
そして、そんな重たい石の扉の向こうには……
それぞれ、上と下に繋がる、──階段があったのだ。
その階段の柱の部分には青の松明があり、空間を薄暗く照らしている。
足を踏み外しそうだし、螺旋階段だから下が見えなくて少し怖いな……。
まぁ……下が見えるのは、それはそれで恐いけど……。
「もしかして、これを降りるの?」
と、僕が問うと。
アキレウスが、階段に足を踏み入れて言う。
「そうっすよ。ちょいと足場が見えにくいっすけど、階段の長さは無いので大丈夫っす」
少しずつ降りていくアキレウス。
そんなアキレウスに続くように、プロメテウスが階段に足を踏み入れる。
「それじゃあ先に行くね!」
軽快に降りていくプロメテウス。
そんなプロメテウスを僕が見ていると、ヘファイストスさんが階段に足を踏み入れる。
「心配せんでも大丈夫じゃよ。ハルトの真摯さを信じた、ワシらを信じろ」
僕の真摯さ、か。それはよく分からないが、そう言って貰えるのは嬉しいな……。
「分かりました!」
「うむ、いい返事じゃ!」
ニコリと微笑んだヘファイストスさん。
その姿に絆された僕は、階段に足を踏み入れていた。
やがて本当に短い階段を降りると、そこにはアニメでよく見る魔法陣があり……。
それに足を踏み入れた僕達は、満点の青空が広がるダンジョンの外へと、──ワープしたのだった。
―――
【世界観ちょい足しコーナー】
ハルトの真摯さ。
▶︎跪くポーズは忠誠を表しており、ここグレースでは最高級の信頼を表している。初対面に対してやるのは、「僕は初対面が相手でも信頼し、真摯に向き合います(直訳:貴方達を信頼してるので、死ねと言われたら死にます)」と言ってるのと道理。であるが故に、みんなはハルトに心を開いたのだ。
○フィアナ騎士団のトップに君臨するエマの、その四人の仲間はみな、────神話の──と、──の生まれ変わりである。神話において『火』などの『自然』は、その物語の主軸に関わってくる根幹である。しかしそれらは、──が無ければ存在しない。そしてハルトの前世は、──の──である。そのため、運命に惹かれ逢ったこの『五人』は、───がかなり上がりやすい。ちなみにエマとハルトの───は、エマからハルトへは──の運命で高くなりやすく、逆にハルトからエマへは──の効果で異常に高くなっている。