「女神様の意向で……」
と、不死鳥系女の子が。
「ワシらとダンジョン攻略する為に……」
と、ヘファイストスさんが。
「異なる世界より馳せ参じた、っすかぁ……?」
と、アキレウスが。──言った。
立ち上がって居た二人は、急に座った。
座っている三人は、互いに見つめ合い。
やがて、その視線を跪いている僕に戻す。
「それ、マジっすか?」
「マジです」
僕は真摯な目で肯定した。
別に、間違ったことは言ってないのだ。
ならば、堂々として居ようじゃないか。
四年後に滅んでしまう様な、そんな異世界とは言え。
拾って貰った、この命への恩返しの為にも。その命で長生きする為にも。
このダンジョンを踏破するために、信頼出来る仲間を沢山集めなければならないのだから。
そんな考えを持っている僕が、キリッとしていると、金髪碧眼のイケメン・アキレウスが口を開く。
「もしかしてっすけど。九つの首を持つ竜・ヒュドラを倒したのも、貴方なんすか?」
九つの首を持つ竜・ヒュドラ?
一つの首が、首だけで動いて居たが……。
「九つの首を持つ竜・ヒュドラ? は、分かりませんが。青い鱗と赤い目の首一つ? は、倒しましたね……」
「ん? お主、それはどういうことじゃ?」
「僕にもあまり分かりませんが、そのままの意味です。今寝ている彼女が動く生首に襲われていたので、僕の神器を解放して倒しました……」
正直なところ、これ以上に適した説明文が思い浮かばないくらいには、的確ではあるのだが……。
うん。自分で言ってても、疑問しか出ないや。
なんだよ、動く生首に襲われるって……下手なB級ホラー映画よりホラーしてるわ。
と、そんなノリツッコミをしていると、不死鳥系女の子が重たい口を開いた。
「ねぇみんな……それってさ、アレじゃない?」
声もボーイッシュガールって感じだ……。
と……それは兎も角、「アレ」とは何だろうか?
「アレ、とは?」
「んー……おそらくだけどね」
不死鳥系女の子は、彼女に視線を合わせる。
「今寝てるこの人が、ボク達フィアナ騎士団の団長なんだけどね。団長が、神器で一つの首以外を燃やしたんじゃないかな? それでね、倒しきれなかった一部を、君が倒したんだよきっと」
疑問形で首を傾げたかと思えば、座りながら剣で切りつけるジェスチャーをする不死鳥系女の子。
その様子を元に、自分なりに想像してみたが……。
僕が一目惚れした彼女は、凄く凄い強いね!
僕の脳内語彙力が、無いなるくらいには……。
「なるほど……それは、余計なことをしてしまったかな」
「フハハハハハハ! そんなこと無いわい! ワシらは死んでて分からぬが、助けてくれてありがとうの!!」
頭をガシガシと撫でられた。
なんだか、お父さんみたいだ……。
ちょっとだけくすぐったいな……。
「ふへへ……。僕なんかが貴方達のお役に立てて、本当に良かったです…………」
会うことの出来ない両親に、この思いを馳せ。
お父さんみたいなヘファイストスさんに、心が綻んだ。
そんな僕は、キリッと決めていた筈なのに、どこか照れくささと憂いを残してしまった。
あぁ……両親が、恋しい……。
──あれ? 僕の手に、温かな感触がある。
それが気になった僕は、自分の手を見た。
その感触は誰かの手で。その手の正体は……僕を一番に警戒していた、アキレウスだったのだ。
そんなアキレウスは、その碧眼を潤わせ、言葉を紡ぐ。
「僕なんかが、って……。そんなことを、自分で言っちゃダメっす。貴方は、俺達の命の恩人なんすから」
「で、でも……」
「でもじゃないっす! 副団長なのに、感謝を言うのが遅れてすみません。助けてくれて、──ありがとうございます」
このとき、走馬灯の様に過去の思い出が、一気にフラッシュバックして来た。
登校中の学生の声が、毎日のように聞こえて。ブルーな気持ちになって、毛布にくるまって逃げた日々。
──その度に、普通の学生と自分を比べて、日に日に自分は無価値だと思い知った。
両親と会うのが、どこか気まずくて。ご飯にすら食べに行けなかった、そんな日々。
──その度に、置き手紙付きのご飯が、部屋の外に置いて合って。心が、凄く苦しくなった。
僕は苦しかったり、辛かったりするときに何時も、アニメやゲームで現実逃避をしていた。──クズだ。
そんな、何の役にも立たないクズなのに……。
知らない人に、何故か励まされてるのに……。
僕が、両親に甘えて、泣かせて……。ただただ引き篭って居た、どうしようも無い人間なのに……。
別に、僕の力で助けれた訳でも無いのに……。
どうしてかな?
心がさ、救われたんだ……。