僕はその言葉に頷き、他の三人が居る方へと向かうヘファイストスさんに着いて行った。
 三人の方に僕が近づくと、今なお寝ている彼女以外の二人が立ち上がり、その警戒心を剥き出しにする。

 け、警戒を解かなければ……。

「こ、こんにちは~…………」
 
 うっ……何とも言えない視線が突き刺さる。
 手を振っても、誰一人として返してくれない。
 ヘファイストスさんは胡座をかいて、自分の足に眠っている美人を寝かせてるし……。
 
(こりゃ駄目だ。オワタ)

 と、そんなことを思ったときだ。
 たじろんでいる僕に、生暖かい目線を向けるヘファイストスさんから、救いの手が差し伸べられたのだ。

「そう警戒しなくても良い。さっき回復したじゃろ? あれはコヤツの超治癒魔法(アクスレピオス)じゃよ」

「そ、そうなんですか……? さっきから気になっては居たんですが、良かったぁ……敵では無さそうですね」

 ホッ、と胸を撫で下ろす不死鳥系女の子。
 にしてもこの娘、凄くボーイッシュな感じだ。
 
「そうです! 僕は敵じゃなくて、貴方達の味方です! なので、そんなに睨み付けないでください……」

 そうなのだ。
 たった一人だけ、金髪碧眼のイケメンが、未だ警戒心を顕にしているのだ。

「確かにアクスレピオスは、仲間と思ってる者に対する治癒魔法っすけど。初対面で仲間って、洗脳でそう思ってるだけとかじゃないんすか? そもそも……ここまでどうやって来て、ここにどうやって入ったんすか?」

 洗脳、か……ふむ。
 それに関してはよく分からないが、他のことは色々含めて話す必要があるだろう。

「大丈夫です。今から全部話します」

 僕はこのとき、ヘラ様との話を思い出した。
 
 一つ。──ヘラ様は僕に、四年後までにダンジョンを攻略して、この世界を救って欲しいこと。
 そのダンジョンと言うのが、今僕が居る、あのバケモノが居たこの場所なのだろう。
 
 二つ。──ヘラ様は僕に、とある女の子と、この世界を救って欲しいと言ったこと。
 その女の子と言うのが、今ダンジョンを攻略していた彼女のことなのだろう。

 三つ。──ヘラ様は僕に、沢山の仲間が出来ますよ、と言ったこと。
 その仲間と言うのが、彼女を団長と慕って取り巻く、この四人のことなのだろう。

 僕は今……
 何故、ダンジョンに直接転生したのかも。
 ──わからない。
 何故、彼女がピンチのタイミングで、僕が丁度よく転生して現れたのかも。
 ──わからない。
 それが、ヘラ様の仕組んだことなのかも。
 ──わからない。

 わからない尽くしな、こんな今の僕だけど。
 一つだけ、たった一つだけ分かることがある。

(この世界で生き抜く為に、この人達の信頼が必要だ)

 人が信頼を得るときに必要なのは、大きく分けて二パターン存在する。
 
 一つ。──契約。
 人は取引をするとき、相互的に契約を結ぶことで、取引内容に応じた見返りを保証させる。
 そして、その契約と言う形が、「この人と取引をしても大丈夫」と言う、一種の信頼関係になるのだ。

 二つ。──自分を知って貰うこと。
 人は得体の知れないモノに恐怖し、恐怖したモノに対して排他的になる。
 だからこそ人は、互いにコミュニケーションを取ることで相手を知っていき。そして、友達と言う名の、一種の信頼関係になるのだ。
 
 要は相手に……
 自分と言う存在を、恐怖の対象では無く。
 逆の、安心出来る対象として見て貰えれば良い。
 
 で、あるならばこそ……
 僕がやるべきことは一つ。
 
 ──自己紹介だ。

 そう思い立った僕は、女神様の威光を借りるべく、アニメで見た騎士風の跪くポーズをした。
 僕のことを見ている三人の目を、真っ直ぐに見て言う。

「僕の名前は()()()()

 出来る限り凛々しく。

「この度は()()()の意向により、()()()()()()()()()()()()()()()する為、異なる世界より馳せ参じました」

 やがて、その言葉が終わる。

「この使命を契約の礎に、アナタ方の()()にして頂きたい」