「ちょっと待ってください、ヤマモトさん。犯人は何者なんですか? 私には魔物としか思えません」
「確かに、常軌を逸した犯行です。とても人間業ではない……何か途轍もなく凶悪な生命体なのかもしれない。そう感じずにはいられません」
「犯行現場は、キッチンなんですね?」
「ええ、仮に寝室をAとし、キッチンをBとします……」
「被害者は、寝室からキッチンへ足を踏み入れた途端に襲われた、ということで間違いありませんね?」 
「そ~なんですよ、カワサキさん。A地点からB地点へ移動する間に犯行は繰り返されたのです」
「なんとおぞましい。」
「ところで、犯人は、まだ捕まっていないのでしょうか?」
「はい、そのようです。まんまと逃げおおせたのです。今もどこかで、犯行の機会をうかがっていると思われます」
「こんな狡猾な魔物を野放しにしてはいけません。早く策を講じるべきではないでしょうか」
「そ~なんですよ、カワサキさん。この状況下では、わたくしたち一人ひとりが自覚を持つべきです。それで提案なのですが、“あるもの”で対処するのが最も有効な手段といえるのではないか、私は、そう考えております」
「ほう、その“あるもの”とは、いったい何なのでしょう?」
「それはですね、恐らくどこのご家庭でも溜まってゆくものです。再現VTRのワンシーンにもありましたように、新聞紙です。これが、最強の武器になり得るのです」
「そういう意味なら、スリッパも有効なのでは?」
「ご明察通り! しかし、いつも側にあるとは限りませんよね。しかも、中には高価な品だってあります。もったいない。
新聞紙なら、どうせ捨てられる運命ですから、何の躊躇いもなく使用できるのです」
「なるほど、ペラペラですが、丸めればかなり固くなりますものね。ヒットすれば、ヤツに多大なダメージを与えることができる。でもですね、ヤマモトさん。一網打尽とまではいきません。もっと有効な手立てを考える必要がある」
「──と、おっしゃいますと?」
「キンチョマキラースで間違いないでしょう。シューッとひとふり。当番組のスポンサーですし……」
「ああ、そうでした。でも、それではこのリポートの意味がなくなるのでは? わたくし目の立つ瀬がないような……いやいや、それで決まりですかね」
「我々タレント業の悲しい性と申しましょうか、スポンサーには逆らえません、ヤマモトさん」
「そ~なんですよ、カワサキさん」
「そろそろ時間が参りました。犯人はどこに潜んでいるかわかりません、くれぐれも魔物の餌食になりませんように……」
「視聴者の皆様の安全をお祈り申し上げるばかりですねえ、カワサキさん」
「そうですね……明日のゲストは漫才師の“ザ・ぼんち”のお二人です。面白いお話が聞けそうですね、ヤマモトさん」
「そ~なんですよ、カワサキさん」
「それでは、明日のこの時間にまたお会いしましょう。サヨウナラ」
「 サヨウナラ」