◆♀ 【裸族乙女】 ♀◆

 ベッドの足元、ロフトの真下の机上を手探りする。
「あった!」
 握り締め、一度胸に押し当て涙目で神に感謝した。作戦決行だ。なんで端から気づかなかった。初めからこの手で行けば、今頃は解決して極楽浄土を歩んでいるはずなのに。
 早速、彼に連絡した。呼び出し音が繰り返され、やっと音声が耳に響いた。安堵して彼の声に耳を傾ける。
「ただいま、出られません……」
「なんじゃコリャーッ!!」
 思わず机を殴る。
 何度も何度も連絡を取る。が、スマホからは無情な留守電の音声が絶望をもたらすのみ。メールもダメ。いかなる手段も通用せず。それでも諦めず、連絡を取り続けた。
 突如、スマホが死んだ。
 充電……じゅうでん……ジュウデン……心で唱えながら机の引き出しから充電器を出してスマホに接続。怒りに震える手でコンセントにぶっ刺した。
 ──充電は開始されない。
「なんでじゃコノヤロー!!!」
 暗闇の中、頭は混乱し、怒りの涙は流れる。直ぐに原因が判明した。「──そうか!」
 停電のせいだ。すっかり忘れていた。悲嘆に暮れ、嗚咽しながら己の愚かさに苦笑する。我が愛しの彼に救助を求めた策もあえなく徒労に終わり、最早、身も心も絶望状態だ。奈落の底、とはこんな状態をいうのであろう。
「なんで私だけが……なんのバチが当たったていうのよ!」
 悲しみが胸の奥深くから湧き出し、(まなこ)をとめどなく濡らす。半べそで神も仏も、ついでに全ての人類を呪った。もちろん彼も。
 泣き疲れ、ふと顔を上げると、外は薄ら白み始めていた。室内の輪郭も、まだ暗いものの今ははっきりと見える。私は決心した。自分で何とかしようと。この状況を打破しなければ幸福はいつまでたっても訪れぬ、と悟ったのだ。世の中が明るくなるのを待った。完全に朝が来てから最後の決戦に挑もうと決意を固めた。


     ◇♂ 【××族 X】 ♂◇

 息を潜めていやがるぜ。軍営に戻ったまま中々姿を見せる気配もねえや。おもしろくねえ。こちとら、もっと遊びてえのに。
「ん! 何でこんなとこまで移動したんだ? なーんか気持ち悪う~!」
 知らず知らずにキッチンの隅に追いやられてるじゃねえか。
 なんだなんだ。ああ、そうか、もうこんな時間なのか。闇の幕から灰色のベールへと移ろいゆく時間帯が訪れたようだ。もうじき朝がこの身にのしかかるんだ。陽に体をはね返され、否応なく休息を余儀なくされる時が訪れたんだ。
「朝だ、朝だ、朝がやってくる!」
 忌々しい朝が。朝は絶望と同義語だ。闇を切望したとて最早、叶わぬ夢と化すのさ。
 そうだ、夢の時間だ。目前に無い物をただただ求めるのみの、やり場のねえ虚しい心を持て余すだけの、切ない運命を味わうんだよ。我が種族の宿命なのさ。
 ゆえに、完全なる朝が来るまでは、この刹那を踊り狂おう。狂喜乱舞の果ての、煌々と燃えるどす黒い石油のような闇を夢見ながら。