進化は自然の摂理だ。三億年前地球上に生まれた弱者は、船内の過酷な環境で息を潜めるように生き延び、知恵を蓄え、次第に巨大化し、いかなる種をも凌駕するほどの知性と肉体を備えた新たな支配者となる。だが、表立って覇権を握るつもりはないのであろう。陰からそっと監視しつつ、支配権を奪い、意のままに操る。賢いやり方である。
 何と狡猾な、などと言うなかれ。為政者から偽りの民主主義を押し付けられても、何の疑念も抱かず、異変に気づこうともしない、否、異変に目を背け続けた事なかれ主義の蔓延を許した人類のほうが愚かなのだ。

 私は、この“ノアの箱舟号”で起きた真実(『非検閲』の記録)をSNSに投稿してやった。また、この船のワープ航法に関する操縦方法もキャプテンGには明かしてはいない。よって、地球への帰還は、数万年もの時間を要する。その間に、人類の誰かが、どうにか気づいてくれるなら、人類に対してのせめてもの償いになるであろう。
 これらの行為は、私の個人的な立場からだ。人類のつくったプログラムには反しない。
 202X年現在から遡ること数万年前、高度な科学文明が花開き、人類の一部は既に大宇宙へ飛び出した。“宇宙船 ノアの箱舟号”の乗組員たちは、その末裔なのだ。地球上に残った人類は、この事実をすっかり忘れてしまっている。現在の地球文明は船内の人類よりも明らかに後退している。この数万年間に一旦、輝かしい文明を放棄する程の何か不測の事態でも起きたとしか思えない。気候変動、自然災害、パンデミック、あるいは核戦争による人類大量絶滅なのか、その原因は不明だ。私、ハルとて知る由もない。
 ──地球へ帰還した時、支配権を握るものは?
 人類か“G”か、はたまたAI……それとも、エイリアンか。想像は膨らむ。何れにしても、それは見ものではないか。
「さて、顛末やいかに? わたしは、ハル」