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 休日の朝、ご主人はいつもと違うバス停に立っていた。
 わたしにとってこの冬初めての外出だった。
 そのせいでドキドキが止まらなかったが、バスがなかなか来ないので、どこに行くのかさっぱりわからなかった。
 仕方がないので足持ち無沙汰に辺りを見回していると、エリザベスの姿が見えた。
 飼い主を引っ張るように急いでわたしの方に向かってくる。
 
「どこへ行くの?」

 飼い主は止めようとしたが、エリザベスは構わずわたしの方へ急いだ。
 そして、ハアハアと荒い息をしながら近寄ってきて、至近距離で止まった。
 それから、躊躇いがちに鼻を寄せてきたと思ったら、クゥ~ンと鳴いて、上目がちにわたしを見た。
 何かを訴えるような眼差しだった。
 どうしたのかと思っていると、恐る恐るという感じで声をかけてきた。

「友達になってくれる? もうオシッコしないから」

 お願い、というように首を縦に振った。
 それが余りにもいじらしかったので、思わず笑みを返した。
 でも、「いいわよ。友達になってあげる」と言った途端、嫌悪が走った。
 
 何様のつもりだ、
 
 上から目線の自分が嫌になった。
 すぐに言い直した。
 
「ありがとう。嬉しいわ。これから仲良くしましょう」

 すると、エリザベスの顔がパッと明るくなった。
 ワン、ワンと吠えて、尻尾を千切れるくらいに振って、ジャンプを繰り返した。
 
「どうしたの?」

 飼い主がエリザベスを押さえるように抱え込んで頭を撫でると、「クゥ~ン」と鳴いて、飼い主の顔をなめた。
「まあ」と驚いた表情になった飼い主がエリザベスの顔にスリスリすると、エリザベスは目を細めて嬉しそうにしていた。

「さあ、行きましょう」

 飼い主に促されて、エリザベスが歩き出した。

 角を曲がる時、エリザベスが振り向いてウインクをしたので、わたしもウインクを返した。
 すると、尻尾を大きく振った。
 それを見て、なんか気持ちが温かくなった。
 そのせいか、エリザベスの姿が消えてからもその残像を見続けた。
 しかし、バスの到着と共にそれは消え、ご主人と共にバスに乗り込んだ。