目が覚めたら、わたしの横に彼はいなかった。
 
 えっ? 
 ジェンはどこ? 
 
 狼狽えた。
 
 ジェンはどこに行ったの?
 
 焦って辺りを見回すと、「ここだよ」という声が聞こえた。
 カウンターからだった。
 背の高そうな男性が立っていて、ジェンを見つめていた。
 
「素晴らしいリフト交換ですね。ありがとう」

 彼の主人に違いなかった。
 しっかりその顔を目に焼き付けていると、ジェンを持ち上げて紙袋に入れた。
 その途端、ジェンが視界から消えた。
 わたしは思い切り叫んだ。
 
「ジェン~!」

 彼が入っている紙袋に向かって何度も叫び続けた。
 すると、「大丈夫だよ。すぐに会えるよ。近所だからね。大丈夫だよ」と紙袋の中からくぐもった声が聞こえた。
 でも、そんなの、絶対に嫌だった。
 
「行かないで……」

 涙を抑えることができなくなって、震える声で哀願した。
 そんなことで止められるはずはなかったが、それでも死に物狂いで叫び続けた。
 
「行かないで~」 

 ありったけの声を出して叫び続けたが、その声が彼の主人に聞こえるはずもなく、紙袋を持ち上げて背を向け、ゆっくりと去っていった。ジェンがわたしの前から姿を消した。