「俺を気に入ってくれた人は結構いたんだ。俺の品質とデザインは最高だからね。でも、俺の靴型に合う日本人は現れなかった。足幅が広くて甲が高い日本人には合わなかったんだ。俺は落ち込んだ。かなり落ち込んだ。周りの靴がどんどん売れていくのに俺だけ取り残されて、棚の肥やしになっている自分が惨めだった。きついぜ、売れ残ると」

 顔を歪めたので何か言ってあげたかったが、適当な言葉が見つからなかった。
 黙って聞いていることにした。
 
「そんな中で棚替えの時期がやって来た。冬物を春物に替える作業が始まったんだ。ブーツは全部倉庫に運ばれた。もちろん俺も。箱に入れられて窒息しそうだった。真っ暗で何も見えないし、シューフィッターの声も客の声も聞こえない。気がおかしくなりそうだった」

 それは想像したくないものだった。
 わたしだったらとても耐えられない。
 
「ある日、返品という声が聞こえた。売れ残りの在庫整理が始まったんだ。俺の近くにあった靴の箱が運び出されるような音が聞こえた。メーカーに返品されていたんだと思う。いつ俺の順番が来るのかと思うと、恐怖で体が固まった」

 その状況が目に浮かぶと、体がブルブル震えてきた。
 
「1日が経ち、2日が経ち、3日が経ち、そして……」

 そして、何?