レシアは魔女の一族と呼ばれているシェルーク家の生まれだ。
一族の血縁者の中には、ときどき魔力を持つ女性が生まれる。
魔女といっても呪いや毒を扱う黒魔術ではなく、シェルーク家の魔女は癒しや善行となる白魔術を扱う。
そして月光を操り特殊な秘術も使えるため『偉大なる銀月の魔女』という呼び名がある。
灰色っぽい薄麻色の髪と淡い紅紫色の瞳が特徴だ。
『銀月の魔女』と『銀騎士団』の関わりは古く長い。
騎士団の頭文字に〈銀〉が付くことにも理由がある。それは月の光やその輝きの色と同じ銀色は魔物が嫌う彩であること。そして古い書物の記録によれば、魔物討伐を行う騎士団の創設に『銀月の魔女』が関わっていたからと伝えられている。
レシアの両親に魔力はなかったが、母はシェルーク家の生まれでレシアの祖母は魔女だった。
シェルーク家の魔女として生まれた者は『銀月の魔女』として生きることを誓い、その技などを継承することが一族の掟になっている。
修行や弟子入りとも言われる魔女の継承は十歳頃からでよかったのだが、レシアは六歳のとき両親が相次いで病死したため『銀月の魔女』だった祖母ミランダに引き取られた。
そしてここ〈森の住処〉で育てられ、小さい頃から銀月の魔女としての教育を受けていた。
そのせいか、弟子入りしてから十年は必要とされる魔女の継承を、レシアは十六歳で終了し、ミランダから「もう教えることはないよ」と言われていた。
ミランダもその頃にはかなり高齢だった。そのためレシアを魔女が行う仕事に同行させたり、ミランダの代わりにレシアが仕事を務めることもあった。
そして六年前、レシアが十八歳のとき、ミランダはこの世を去り、レシアは正式に『銀月の魔女』の継承者となった。