ゴールデンウィークがやって来るのも早かったけど、過ぎ去るのも早い。部活の引退まで、あと二ヶ月だ。受験勉強も大切だけど、俺にとってサッカーも同じくらい大切なものである。二周目だけど、一周目より仲間とサッカーができる日々をかみしめながら、これからも後輩たちが楽しくサッカーをしてくれれば嬉しい限りである。
そんなこと思いながら、玄関で上履きから、サッカーシューズに履き替えようと、靴箱を開けると、中に折り畳まれた白い紙が置かれていた。
時が一瞬止まったかのようだった。
靴箱に手紙が入っていたことは、今までに何度かあったけど、その時とは何だか違う気がする。唾を飲み込み、恐る恐る紙を手にして、開く。
――水島花凛について話したいことがある。四時に屋上で待っている。一人で来い。
もしかしたら、この紙を書いた人物が水島の死に何かしら関わっているのではないか。嫌な予感が心で揺らめく。
「匠、どうした? 練習行くよ」
「二人、ごめん。俺、ちょっと用事を思い出して、少し遅れていく」
「分かった」
一緒に部活に行こうとしていた大樹と奨太に謝るとすぐ、俺は紙を手に握り、すぐさま屋上へと向かった。
走ったせいで、少し息切れをしてしまった。膝に手を置き、呼吸を整える。屋上に着いた。時計を見ると、ちょうど四時になり、チャイムが鳴り響いている。しかし、あたりを見渡すと誰もいない。
俺は、一周目、水島が落ちたとされる場所へ足をゆっくり進ませて見下ろしていた。四階からだから、もちろん怖いし、ここから犯人に落とされたのだと思うと、氷を入れられたかのように背筋がぞっとする。足元が竦み、あの日の記憶が呼び起こされる。血まみれで横たわる水島が脳裏に浮かぶ。
水島、怖かっただろうな。俺が一人にさせてしまったせいで……。
目頭が熱くなり、あの日の後悔と絶望が喉から湧き上がりそうだった。
ドアが開く音が耳の中を突き抜ける。俺の靴箱に紙を入れた人間が現れた。迫りくる足音……悪天候で荒ぶる海みたいだったが、深呼吸をして荒波を落ち着かせる。俺は恐怖を手に隠し、振り返る。
あの日、水島をこの屋上から突き落としたかもしれない人物が立っているかもしれない。
スカートが目に映る。水島を殺したかもしれない犯人はこの学校の女子生徒なのか……。視線を上げて、正体が誰なのか知ろうとして目が合う。
お前は……。
「小坂、芽生……」
無意識に口にしていた。始業式のクラス替えを掲示板で見ていた時、水島と一緒にいた。
確か、水島と同じ美術部に属している。
この手紙を靴箱に入れたのは、彼女ということだ。
「柴崎くん……あの紙を入れたのは私」
「もしかして」
唾をゴクっと飲み込む。
今から吐こうとする言葉は、呆れた表情を引き起こさせるかもしれない。でも、俺はそんなこと構わず言葉にした。
「小坂……お前、まさか二周目か?」
「なぜ、そう思うの?」
緊迫した空気が風の音と共に流れている。
「思い出したんだ。水島の横にいた小坂が、一周目、ゴールデンウィーク前に急に学校に来なくなった。でも、今は、ゴールデンウィーク後も学校に来ている」
俺の推理を水島にぶつける。
もし間違っていたら、恥ずかしいが、そんな気持ちより水島の命の方が大切だから。
「正解! 私も、二周目を生きている」
小坂の口角が上がり、強く風が吹いている中、声を張りながら答える。でも、彼女は肩を震わせていた。
「花凛を救うために」
俯き、どこか寂しそうな声で続ける。
「なぜ、一周目、学校を辞めた?」
俺は、答えにくい質問を率直に投げてしまったことに、やってしまったと思った。
でも、小坂は顔を再び上げ、膨れ上がった風船を何の躊躇いもしないで針で刺したかのように、語り始める。
俺は、その破裂音に一瞬、肩が竦む。でも、すぐ平常心に戻す。
彼女の言葉を受け止めるために……。
「私が、学校を辞めた理由。それは……花凛のことが好きだったから。友達としてじゃなく、恋愛感情を抱いていた。花凛には思っている人がずっといたのは何となくだけど知っていた。その相手が、柴崎くんというのも分かっていた。でも、その肝心な相手が花凛のこと忘れていて、しかも他の女と歩いていた。花凛は笑顔で私に接してくれていたけど、明らかに傷ついていた。そんな花凛が心配…という同時に、私が奥底に押し込んでいた花凛への好きという気持ちが爆発し、困らせてしまった」
俺は小坂の言葉通り、一時期、告白してきた女子の圧に負けて、付き合っていた時期があった。でも、一緒にいて一ミリも楽しくなかったため、一週間足らずして振った。
「ごめん」
謝ることしかできなかった。
「私は、柴崎くんのせいで花凛が自殺したのではないかと思っていた」
「俺は違う」
小坂の言葉をすぐさま否定する。
「でも、花凛は誰かに殺されたと私は思う」
「俺も、水島の死は自殺ではないと思う。あの日、屋上で怪しい人影を見たんだ。下からで顔があまり見えなかったけど」
「私は花凛が何だかの秘密を知ってしまい、口封じのために自殺に見せかけて殺されたのだと、そう思っている」
「俺もそうだ」
小坂の唇が震えているのが目に入る。そして、小坂が俯く。風の音とともに小坂の鼻をすするが耳をかすめる。手で涙を拭っているように見え、何かを言おうとしている。
小坂の言葉を待つ。
「私たち、花凛を救うために手を取りませんか?」
風で髪とスカートが靡いているが動じず、小坂は顔をあげると真剣な眼差しを向け、俺の目の前に手を差し出す。
「分かった」
小坂の手をすぐ取り、大きく頷く。
迷いはなかった。
この戦いは、一人の力より、協力して挑むべきだ。
「絶対に、助けような。水島のこと」
「うん、もちろん」
まさか、俺以外にもタイムリープをしている人が存在するなんて、驚きだ。一人で挑まないといけない戦いだと思っていたったけど、この世界で同じ目的のために、二周目を生きている同士がいると知って嬉しかった。そして、心強いと思った。
でも、小坂のあの発言が洗濯機の中でグルグルと回り続けているかのように、頭から離れない。
――花凛のことが好きだったから。友達としてじゃなく、恋愛感情を抱いていた。
そんなこと思いながら、玄関で上履きから、サッカーシューズに履き替えようと、靴箱を開けると、中に折り畳まれた白い紙が置かれていた。
時が一瞬止まったかのようだった。
靴箱に手紙が入っていたことは、今までに何度かあったけど、その時とは何だか違う気がする。唾を飲み込み、恐る恐る紙を手にして、開く。
――水島花凛について話したいことがある。四時に屋上で待っている。一人で来い。
もしかしたら、この紙を書いた人物が水島の死に何かしら関わっているのではないか。嫌な予感が心で揺らめく。
「匠、どうした? 練習行くよ」
「二人、ごめん。俺、ちょっと用事を思い出して、少し遅れていく」
「分かった」
一緒に部活に行こうとしていた大樹と奨太に謝るとすぐ、俺は紙を手に握り、すぐさま屋上へと向かった。
走ったせいで、少し息切れをしてしまった。膝に手を置き、呼吸を整える。屋上に着いた。時計を見ると、ちょうど四時になり、チャイムが鳴り響いている。しかし、あたりを見渡すと誰もいない。
俺は、一周目、水島が落ちたとされる場所へ足をゆっくり進ませて見下ろしていた。四階からだから、もちろん怖いし、ここから犯人に落とされたのだと思うと、氷を入れられたかのように背筋がぞっとする。足元が竦み、あの日の記憶が呼び起こされる。血まみれで横たわる水島が脳裏に浮かぶ。
水島、怖かっただろうな。俺が一人にさせてしまったせいで……。
目頭が熱くなり、あの日の後悔と絶望が喉から湧き上がりそうだった。
ドアが開く音が耳の中を突き抜ける。俺の靴箱に紙を入れた人間が現れた。迫りくる足音……悪天候で荒ぶる海みたいだったが、深呼吸をして荒波を落ち着かせる。俺は恐怖を手に隠し、振り返る。
あの日、水島をこの屋上から突き落としたかもしれない人物が立っているかもしれない。
スカートが目に映る。水島を殺したかもしれない犯人はこの学校の女子生徒なのか……。視線を上げて、正体が誰なのか知ろうとして目が合う。
お前は……。
「小坂、芽生……」
無意識に口にしていた。始業式のクラス替えを掲示板で見ていた時、水島と一緒にいた。
確か、水島と同じ美術部に属している。
この手紙を靴箱に入れたのは、彼女ということだ。
「柴崎くん……あの紙を入れたのは私」
「もしかして」
唾をゴクっと飲み込む。
今から吐こうとする言葉は、呆れた表情を引き起こさせるかもしれない。でも、俺はそんなこと構わず言葉にした。
「小坂……お前、まさか二周目か?」
「なぜ、そう思うの?」
緊迫した空気が風の音と共に流れている。
「思い出したんだ。水島の横にいた小坂が、一周目、ゴールデンウィーク前に急に学校に来なくなった。でも、今は、ゴールデンウィーク後も学校に来ている」
俺の推理を水島にぶつける。
もし間違っていたら、恥ずかしいが、そんな気持ちより水島の命の方が大切だから。
「正解! 私も、二周目を生きている」
小坂の口角が上がり、強く風が吹いている中、声を張りながら答える。でも、彼女は肩を震わせていた。
「花凛を救うために」
俯き、どこか寂しそうな声で続ける。
「なぜ、一周目、学校を辞めた?」
俺は、答えにくい質問を率直に投げてしまったことに、やってしまったと思った。
でも、小坂は顔を再び上げ、膨れ上がった風船を何の躊躇いもしないで針で刺したかのように、語り始める。
俺は、その破裂音に一瞬、肩が竦む。でも、すぐ平常心に戻す。
彼女の言葉を受け止めるために……。
「私が、学校を辞めた理由。それは……花凛のことが好きだったから。友達としてじゃなく、恋愛感情を抱いていた。花凛には思っている人がずっといたのは何となくだけど知っていた。その相手が、柴崎くんというのも分かっていた。でも、その肝心な相手が花凛のこと忘れていて、しかも他の女と歩いていた。花凛は笑顔で私に接してくれていたけど、明らかに傷ついていた。そんな花凛が心配…という同時に、私が奥底に押し込んでいた花凛への好きという気持ちが爆発し、困らせてしまった」
俺は小坂の言葉通り、一時期、告白してきた女子の圧に負けて、付き合っていた時期があった。でも、一緒にいて一ミリも楽しくなかったため、一週間足らずして振った。
「ごめん」
謝ることしかできなかった。
「私は、柴崎くんのせいで花凛が自殺したのではないかと思っていた」
「俺は違う」
小坂の言葉をすぐさま否定する。
「でも、花凛は誰かに殺されたと私は思う」
「俺も、水島の死は自殺ではないと思う。あの日、屋上で怪しい人影を見たんだ。下からで顔があまり見えなかったけど」
「私は花凛が何だかの秘密を知ってしまい、口封じのために自殺に見せかけて殺されたのだと、そう思っている」
「俺もそうだ」
小坂の唇が震えているのが目に入る。そして、小坂が俯く。風の音とともに小坂の鼻をすするが耳をかすめる。手で涙を拭っているように見え、何かを言おうとしている。
小坂の言葉を待つ。
「私たち、花凛を救うために手を取りませんか?」
風で髪とスカートが靡いているが動じず、小坂は顔をあげると真剣な眼差しを向け、俺の目の前に手を差し出す。
「分かった」
小坂の手をすぐ取り、大きく頷く。
迷いはなかった。
この戦いは、一人の力より、協力して挑むべきだ。
「絶対に、助けような。水島のこと」
「うん、もちろん」
まさか、俺以外にもタイムリープをしている人が存在するなんて、驚きだ。一人で挑まないといけない戦いだと思っていたったけど、この世界で同じ目的のために、二周目を生きている同士がいると知って嬉しかった。そして、心強いと思った。
でも、小坂のあの発言が洗濯機の中でグルグルと回り続けているかのように、頭から離れない。
――花凛のことが好きだったから。友達としてじゃなく、恋愛感情を抱いていた。