ピピピ。
頭の中から、アラーム音が聞こえる。
(朝…?)
いつものように重い瞼を開けると、横に誰かいることに気がついた。おまけに、背中や腰が痛い。とりあえず、体を起こして辺りを見回してみる。どうやら、昨日は遊び倒して皆床で寝てしまったようだ。そのせいであちこち痛いのだろう。
アラームが鳴ったということは、今は朝8時ということになる。いつもならば、瑠璃華や羅華はとっくに起きている時間だか、疲れて2度寝したのだろう。全く起きる様子もなく、私の隣ですやすやと眠っている。
「はあ…。全く、しょうがないわね。」
そう呆れた声を出したが、思わず笑ってしまう。今までの人生でこんな風に1夜を過ごしたことはなく、とても新鮮だった。


「ねえナラ。わたくしはなんでうまれてきたんでしょうね?」
彼女の優しい、落ち着いた声が好きだった。
「さあ?私にも分かりません。ですが、カレン様が生きたいように生きればいいではありませんか。私は一生お側にお仕えしますよ。」
そう言って笑ってくれた。いつでも隣のいると言ってくれた。だから、「自分らしくいよう」そう誓った。


「そんなこともあったわね。」
昔を思い出して、泣きそうになる。自分でも分かっている。もう永遠にナラに会うことができないこと、前世では最悪の終わりを迎えたこと。それが全て私のせいであること。
「どうか、どうか、私と同じ道を歩かないで。約束だよ、皆。」
そう言った私の頬に一筋の涙が流れる。いつぶりだろうか。
溢れ出しそうな感情をグッと胸にしまい、涙をぬぐってから部屋を出た。

ピンポーン。
玄関から音が聞こえる。今日は訪問者もいないので、おそらくメア家の誰かだろう。任務に行く私を迎えにきたのだ。
「今行くわ!」
雨晴家もだいぶ大きな屋敷であるため、今の私の返事はおそらく玄関までは聞こえていないだろう。分かっていても、なんとなく返事をしなくてはという気分だった。
荷物を全て持ち、駆け足で長く大きい階段を降りていく。やがて、大きな扉が見えてくる。ここが玄関だ。私は深呼吸してから玄関の扉をグッと押して、外へ出る。
外へ出ると、強い日差しが私を照らした。そして視界に映ったのは1人の少年と黒い車。よくよくみると、少年はツキだった。それを見て声をかける。
「ツキ…!」
「お姉ちゃん!」
私がツキを呼んだのとほぼ同時に、後ろから私を呼ぶ人の声が出た。振り返ると、息を切らした瑠璃華、羅華、ユキがいた。きっと起きた時に私がいなかったのに誰かが気がついて急いで来たのだろう。
「お見送り?ふふっ。ありがとう。」
3人に不安を抱かせないために、笑って見せた。
「今度、華恋ちゃんのお家に遊びに行くから!絶対絶対無事に帰ってきてね!」
ユキが私の笑顔に答えるように言ってくれる。
「ええ、もちろんよ…!それまで私がいなくても頑張るのよ〜?」
皆でぎゅっと抱きしめ合い、私を含め4人で笑い出す。こんなにまで想われている私は幸せものなのだろうと思う。
(またいつか、こんな日が来たら良いな。)
そんな淡い考えを抱きながら、満面の笑顔で手を振って「行ってきます!」と言った。
早く車に乗ろうとくるっと回れ右すると、ぶつかりそうなくらい至近距離にツキが立っていた。さっきの気分が一気になくなるようなちょっとした喪失感が出てきた。
「終わったなら早く乗って。遅れるから。」
さっきの気分が一気になくなるようなちょっとした喪失感が出てきた。
ツキにはどうでも良い事だったのだろう。まあ、私も遅れるのはごめんである。そう思い、いかにも高級そうなその車の後ろのドアを開けて椅子に座る。前の席には運転手、隣にはツキが座っていた。それから人数が揃わないことに気がつく。
「あれっ?他の2人は?」
「用事があるらしいよ。僕もよく知らないけど。後でくるでしょ。」
ツキは兄弟のことも周りと同じようにあまり気にかけない。何故こんな態度をとっているか頑なに喋らないので深く詮索したことはない。
(まああいつらといても楽しくないしどーでもいい〜。)
態度には出さず心の中でそう言い、緊張をほぐして目的地へと車に乗って向かって行った。