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・【01 はじまり】
・
入学は九十人で始まる。
その九十人は期を越えていくごとに人数が減っていく。
授業のレベルが高過ぎて減っていくわけではない。
いやまあ考え方によってはそうなんだけども、自ら選択していなくなるわけではない。
学校が定めるテストで最下位の生徒は、自殺室で自殺をしなければならないのだ。
三学期を四で分けて、計十二回、最下位を決めるテストがあって。
十二×三年で三十六人が死んでいく。
この三十六という数字が絶妙で、半分よりちょっと下でも卒業できてしまうというところが肝で、そのせいで下位は潰し合いになる。
この高校を卒業できれば将来の成功は約束されたようなものなので、生徒たちは必死で蹴り合うなのだ。
とはいえ、僕は最下位になることなんて無いだろうと思っていた。
何故なら神童だったから。
だが、この世には神童が山ほどいることを知った。
それに……まあそれはもういいんだ。
自殺室は旧校舎の一番端にある。
旧校舎は三方が山に囲まれていて、自殺室はまるで洞穴の中に入るようなイメージ。
日当たりも悪く、ジメジメしているので、うってつけと言ってしまえばその通りだと思う。
自殺室へは自分の足で向かう。
考えようによっては逃げ出せそうにも思えるのだが、監視されているような感覚はある。
だからこの流れから脱出することは不可能だと思う。
そもそも、少なくても僕は、この場からいなくなろうとは思っていない。
そんなことよりも早くこの世界からいなくなりたいんだ。
まあきっと人によっては教師などに自殺室へ連れていかれるパターンもあるのだろうけども、僕はある意味”信頼”もされていたので、自ら進む。
そんなことを考えていたら、自殺室の前へ着いた。
自殺室への扉は錠が掛かっていない。
誰でも好きに入れる状態だが、ここへ好きに入る人は今日まで誰もいなかったと言われている。
そりゃそうだ。
この学校を首席で卒業して、世界の中枢に入りたいと皆、思っているから。
そう、首席に入れば将来の約束くらいじゃ済まない。
日本はもとより、世界の核になれたのだ。
この学校はそれだけの価値がある学校で、正規ルートの学校では決してない。
裏道から本当に世界の、否、地球の中枢に入ることができる。
なので集まってくる生徒たちは一癖も二癖もある生徒ばかりで。
でもよくよく考えたら、どこの学校も一緒だったのかもしれない。
一緒だからこんなことが起きるのだろうな。
いやまあ自殺室という制度は普通の学校ではありえないけども。
さて、入ろう。
自殺室のドアノブは、他の旧校舎のドアノブよりも腐食が進んでいる。
きっと手汗まみれの手で握るから、鉄がよりボロボロになるのだろう。
そんな僕はと言うと、実はそんなに緊張もしていない。
分かっていたことだから。
そして僕は自殺室に自ら入った。
ドアの鍵は勝手に閉まった音がした。
さぁ、死ぬだけだ。
噂では、自殺室は部屋中が血みどろで、生臭い匂いが充満し、入ったと同時に死の臭気に当てられて死んでしまうという話だったが、それは全く違った。
部屋の床も壁も天井も平衡感覚が失われそうになるくらい真っ白で、香りは聖母の腕の中のように甘く澄んでいた。
さらに道具が無い。
自殺するためには死ぬための道具が必要なはず。
だが、この部屋には何も無かった。
どうすればいいか分からず、とりあえず息をとめてみるが、やはりすぐに自分で呼吸を始めてしまう。
さすがに息とめは無理があるかと思い、僕は自分の眉間を強く殴ってみた。
すると、その場で僕は倒れ込み、意識を失っていった。
あっ、死ねるんだ。
この時、僕は少し走馬灯が見えた。
見知らぬ女子と一緒に手を繋いで歩いている。
ここは、孤児院だ。
僕が生まれ育った孤児院。
そこで知能テストを受けて、特別な場所に連れていかれて。
見知らぬ女子も一緒だ、と思った時、その見知らぬ女子が光莉(ひかり)だということを思い出した。
何で僕は一番大切なことをまた忘れていたのだろうか。
何で光莉のことを忘れてしまったのだろうか。
走馬灯の中でもこれじゃ、しょうがないなぁ。
・【01 はじまり】
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入学は九十人で始まる。
その九十人は期を越えていくごとに人数が減っていく。
授業のレベルが高過ぎて減っていくわけではない。
いやまあ考え方によってはそうなんだけども、自ら選択していなくなるわけではない。
学校が定めるテストで最下位の生徒は、自殺室で自殺をしなければならないのだ。
三学期を四で分けて、計十二回、最下位を決めるテストがあって。
十二×三年で三十六人が死んでいく。
この三十六という数字が絶妙で、半分よりちょっと下でも卒業できてしまうというところが肝で、そのせいで下位は潰し合いになる。
この高校を卒業できれば将来の成功は約束されたようなものなので、生徒たちは必死で蹴り合うなのだ。
とはいえ、僕は最下位になることなんて無いだろうと思っていた。
何故なら神童だったから。
だが、この世には神童が山ほどいることを知った。
それに……まあそれはもういいんだ。
自殺室は旧校舎の一番端にある。
旧校舎は三方が山に囲まれていて、自殺室はまるで洞穴の中に入るようなイメージ。
日当たりも悪く、ジメジメしているので、うってつけと言ってしまえばその通りだと思う。
自殺室へは自分の足で向かう。
考えようによっては逃げ出せそうにも思えるのだが、監視されているような感覚はある。
だからこの流れから脱出することは不可能だと思う。
そもそも、少なくても僕は、この場からいなくなろうとは思っていない。
そんなことよりも早くこの世界からいなくなりたいんだ。
まあきっと人によっては教師などに自殺室へ連れていかれるパターンもあるのだろうけども、僕はある意味”信頼”もされていたので、自ら進む。
そんなことを考えていたら、自殺室の前へ着いた。
自殺室への扉は錠が掛かっていない。
誰でも好きに入れる状態だが、ここへ好きに入る人は今日まで誰もいなかったと言われている。
そりゃそうだ。
この学校を首席で卒業して、世界の中枢に入りたいと皆、思っているから。
そう、首席に入れば将来の約束くらいじゃ済まない。
日本はもとより、世界の核になれたのだ。
この学校はそれだけの価値がある学校で、正規ルートの学校では決してない。
裏道から本当に世界の、否、地球の中枢に入ることができる。
なので集まってくる生徒たちは一癖も二癖もある生徒ばかりで。
でもよくよく考えたら、どこの学校も一緒だったのかもしれない。
一緒だからこんなことが起きるのだろうな。
いやまあ自殺室という制度は普通の学校ではありえないけども。
さて、入ろう。
自殺室のドアノブは、他の旧校舎のドアノブよりも腐食が進んでいる。
きっと手汗まみれの手で握るから、鉄がよりボロボロになるのだろう。
そんな僕はと言うと、実はそんなに緊張もしていない。
分かっていたことだから。
そして僕は自殺室に自ら入った。
ドアの鍵は勝手に閉まった音がした。
さぁ、死ぬだけだ。
噂では、自殺室は部屋中が血みどろで、生臭い匂いが充満し、入ったと同時に死の臭気に当てられて死んでしまうという話だったが、それは全く違った。
部屋の床も壁も天井も平衡感覚が失われそうになるくらい真っ白で、香りは聖母の腕の中のように甘く澄んでいた。
さらに道具が無い。
自殺するためには死ぬための道具が必要なはず。
だが、この部屋には何も無かった。
どうすればいいか分からず、とりあえず息をとめてみるが、やはりすぐに自分で呼吸を始めてしまう。
さすがに息とめは無理があるかと思い、僕は自分の眉間を強く殴ってみた。
すると、その場で僕は倒れ込み、意識を失っていった。
あっ、死ねるんだ。
この時、僕は少し走馬灯が見えた。
見知らぬ女子と一緒に手を繋いで歩いている。
ここは、孤児院だ。
僕が生まれ育った孤児院。
そこで知能テストを受けて、特別な場所に連れていかれて。
見知らぬ女子も一緒だ、と思った時、その見知らぬ女子が光莉(ひかり)だということを思い出した。
何で僕は一番大切なことをまた忘れていたのだろうか。
何で光莉のことを忘れてしまったのだろうか。
走馬灯の中でもこれじゃ、しょうがないなぁ。