家族とは、世界のすべてだ。

 すくなくとも幼いわたしにとってはそうだった。
 幼稚園にも保育園にも通っていなかったわたしにとって、家族に拒絶されることはすなわち人との繋がりを完全に絶たれることと同義だった。
 血の繋がった父親を求めないこと。新しい父親を受容し、母親の顔色を窺うこと。朽ちてゆく弟から、目を逸らすこと。

 自分を生かすために、わたしは自分に、まわりに、嘘をついた。
 わたしはしあわせです。お父さんとお母さんはなかよしです。弟は今度、保育園に入ります。
 嘘で固めた泥の城で、わたしは怯えて暮らした。そのうち、誰も助けになど来ないと悟った。泥の城を壊せるのは、自分しかいなかった。

 だから、わたしはやり遂げたのだ。
 それがはるか先の未来まで続く、地獄への入口だとも知らずに。