「大丈夫? 真っ赤だよ」
彼の手が頬に触れる。
「なんっ……離せよ……!」
これ以上はやばい。
「男とキスして感じるのが屈辱?」
当たり前だ。キスぐらいでこんなになるなんて……おかしいだろ。
「俺は別に良いと思うけどね。それだけ純粋ってことでしょ」
いきなり前を触られて絶句する。その手はどんどん上に移り、ベルトにかかった。
「ところで何で君……みたいなのがこんなことしてるのかな。興味あるなぁ」
「ひ、いやっ……」
────本気でやばい。
人として守らなきゃいけない理性が切れる直前、彼はさっと離れた。
「でも今日は用事あるから帰るよ。またね、女子みたいなヤンキー君」
「は!? 待て、この……っ」
自由になったから一発ぶん殴ってやろうと追いかけたが、確かに前が少し熱くて。
震えてしまう。悔しくて泣きそうだったけど、彼を追うことは諦めた。
ウザいほどかっこつけたドドドド変態。
これが、あの少年に対する第一印象だった。
「───おい! わかったぞ、あいつの学校!」
過日。あの一件から周りは目の色を変えて少年の身元を探っていた。結果、わりと早く見つかった。
「あの制服どっかで見たことあると思ってよー……調べたら、ここら辺で一番頭良い双葉高だった。名前は日戸圭一。三年生で、剣道の大会とかでも優勝してる有名人らしい」
「あの日あそこにいたのも、何か学校の奴らが襲われない様にパトロールしてたからっぽい」
「何それ。ボランティア活動?」
「ばーか、アレだよ、アレ! じぜん活動!」
みんな目を丸くしながら討論していた。
というか、ここであれこれ推測しても仕方ない。今持ち得る情報だけじゃ彼の意図が掴めないし。
「エリートだか何だか知らねーけど、あの怨みを晴らさねえとな。なあ、湊?」
呼びかけられ、忌々しい記憶が蘇る。
あの、初めて男とキスした屈辱。女みたいに喘ぎ、醜態を晒した屈辱を。
もう思い出しただけでのたうち回りたい衝動に駆られる。ここにいる連中に知られるぐらいなら退学してやる。もしくは全員オーバーキルだ。
ナンパは確かに良くなかった。けどそれ以外じゃ、俺はここにいる奴らほど他人に迷惑かけて生きてねえぞ。なのにあんな変態野郎にいきなりキッ……駄目だ頭痛くなってきた。
湊は勢いよく立ち上がり、クラスメイト達に向き直った。
「よし! 明日、あいつを襲う。って言っても力じゃ敵わないことがわかったからな、卑怯な手を使って潰すぞ」
「おお~! ついてくぜリーダー!」
アホっぽいものの、こうして日戸を全力で潰すグループが結成された。