湊が友人を止めようとするより先に、彼の腕を誰かが掴んでいた。
「手。その子から離してもらえません?」
現れたのは、湊達と同じ男子だった。切れ長の目つきで、スラッとした体格。だが貧弱という風にも見えない。
「日戸くん!」
少女の一人が、ホッとした顔で叫ぶ。知り合い? いや、彼女達と同じ学校っぽい。
「んだよテメェ、離せ!」
腕を掴まれた友人はカッとなって彼を殴ろうとしたが、難なくかわされ、逆に地面に叩き伏せてられた。
「すごーい! 日戸くん、さすが!」
「大した事じゃないよ。それより皆、早くここを離れて」
彼は少女達を逃がす事を優先した。
わ……。
ちなみに湊は呆然としていた。まるで居間に寝そべってドラマを見てるような気分だった。完全に傍観者となり、その場に立ち尽くす。
「この野郎ッ!」
クラスメイトは皆彼に襲いかかったが、歯が立たずに全員倒されてしまった。少年の洗練された動きは喧嘩の為のものではなく、武道のそれっぽい。意外と冷静に、勝てないと確信した。
「っ!」
その直後、彼と目が合う。
げっ……。
どうしよう。逃げるのは癪だし。
「最低だね」
「え」
「女の子を襲うなんて卑怯な真似、恥ずかしいと思わないの?」
突きつけられた言葉は、正義感に満ち溢れていた。それがまぁ、結構ムカついた。正論だが、それ故にムカつく。
「襲うなんて……熱くなってんのはそっちだろ? 俺らはちょっと声掛けただけだよ」
よせばいいのに、ついつい言い返してしまった。
すると彼は何故か口角を上げて、距離を詰め。手加減なしに湊を壁に押し付けた。
「遊ぶって、例えばこんなこと?」
腹が立つほど不敵な笑み。
それを見たが最後、目の前が暗くなる。代わりに、柔らかい何かが唇に触れた。
ん………?
おいおい、まさか。
嘘だろ、そんな……っ!
何度も瞬きして確認する。だけど当たる吐息が、柔らかい感触がそれをわかり易く教えてくれていた。
今、自分は男とキスしているんだと。
「や……っ」
振りほどこうにも強い力で腕を掴まれ、逃げられない。
唇が離れると、今度は首筋に舌が這う。
ザラザラとした感触。ぬれていて気持ち悪いはずなのに……何故か全身がゾクッとした。
「ねえ。こういう事しようとしたの? それにしては随分新鮮な反応してくれるけど」
嫌で身を捩っても、離してもらえない。だから変な声ばかり上げ、醜態を晒してしまった。