「はいっクイズ! 今日は一体何の日でしょう?」
「え」
夜の人が賑わう駅ビル。そこがいつもの、彼との待ち合わせ場所。
しかし今日はちょっと空気が違う。
湊は目の前のハイテンションな高校生、日戸を、不審者を見るような目で見ていた。
「今日? 何かあったっけ」
「ヒント。湊の周りに関係すること!」
ヒントの範囲でかすぎだろ。
「何の日? ハロウィン?」
「真面目に答える気ないね。今日の出来事を思い出してごらん。本当に何もなかった?」
「なかったな。普通に学校行って、昼飯食って家に帰った」
「それだよ、それが重要!」
いつもより強い口調にビクッとする。
「今日は湊の高校は修学旅行だったでしょ!」
「修学旅行。あぁ、そうだ。だから俺午後授業なかったんだ」
「すっごい大事なことじゃん。俺は二ヶ月前から聞いて覚えてたのに!」
と、ぶつくさ言うのは俺より一コ上の恋人。
「俺が湊だったらそんな平気な顔してらんないよ。寂しくて悲しくて、きっと恋人に慰めて欲しくてたまんない」
成績優秀、容姿端麗、非の打ちどころのない高校三年生……日戸圭一。
俺だけは知ってるけど、類まれなるドSだ。
彼は突然満面の笑みを浮かべると、こちらの手を強く握った。
「で、話に戻ろう。今日はその……プレゼントがある」
「プレゼント」
それこそ誕生日でもないのに、どういう事だろう。不思議に思って彼を見る。すると少し戸惑いというか、照れくさそうに一枚の封筒を取り出した。
「前に約束したの覚えてるかな? 近場だけど、俺と旅行に行こう」
「え」
驚いて一瞬、思考が止まる。
「ドッキリじゃないよ。二週間先だけどね」
動かない湊を心配したのか、圭一は困った様子で中の宿泊チケットを見せてきた。
「まぁ本当は約束でも、慰めたいんでもなくて、単純に湊とお泊まりデートがしたいなぁ~って下心を持ってただけなんだけど」
「……」
ちょっと感動してたのに、彼の悦に入った顔を見てまた見損ないそうになる。でもそんな下心を覚えたのは、彼だけじゃなかった。
彼からチケットを一枚(奪い)取り、ぶっきらぼうに言い放った。
「わかったよ。一緒に行ってやる」
「やった! 断られたら死のうと思ってた」
さっそく不安になってきた。
だけど一度『行く』と言ってしまったわけだし、ここでやっぱり嫌と言うのは良くない。
こうして、俺は恋人と初めての旅行へ行くことになった。