「何でそれがアンタの為になんの」
「分かんないけど、何か変われる気がするし、新しい物が見つかる気がするし」
日戸が語り出した直後、後ろで少年が殴られたんだけど……助けるんなら早く助けろ。
でも彼は、少し照れながら続けた。
「それに、こういうこと続けてたから湊にも逢えたわけだし」
「え」
その台詞にはびっくりした。だって、そんな。俺なんかと逢ったことが、そんな良いことなわけない。

三日前までは俺も、そこでカツアゲしてる奴らと一緒だったんだ。
それなのに────。

「湊は違うよ。これからいくらだって変われる」
「日戸……」

軽く頭に手を置かれて胸の奥が熱くなる。
何だコレ。……嬉しいのか。

「それでさ、その……。今は俺も受験で忙しいんだけど、もし終わって落ち着いたら二人でどこかに」
「なぁ、そろそろ助けないと」

っていうか、もう彼らは少年の財布から金を抜き取っていた。
「やばいね、行ってくる」
何故か赤くなっていた日戸は咳ばらいし、慌てて少年を助けに行った。
変な奴。でも、面白い。
……良い奴だな。




「助けてくれて本当にありがとうございました! あの、良かったらお名前教えてもらえませんかっ?」
「いやいやそんな、名乗るほどのもんじゃないよ。二葉高校三年二組、生徒会長の日戸……とだけ言っておこうか」

めちゃくちゃ名乗ってるじゃねえか。
無事不良を撃退した日戸と少年のやりとりを眺めて、これで有名になってるんだと確信した。
「ここら辺は危ないから気をつけてね」
「はい」
少年が去った後、湊は日戸の方へ歩いた。
「湊、何で隠れるんだよ。出てきてもっと俺の勇姿を見れば良かったのに」
「勇姿とか自分で言う……? 単純に俺がさっきの奴らと同じ学校だから怖がらせると思ったんだよ」
「あぁ。やっぱり優しいね、湊は」
日戸は傷一つなく、鞄を掛け直した。
強くて優しい。変態だけど。
「そのボランティア活動いつまでやんの」
「今年までかな。卒業したらもうこの辺りには来れないし」
日戸は少しだけ残念そうに笑った。

「でも楽しかったよ。もちろん敵もたくさん作ったけどさ」
「へえ」
「俺がいなくなった後、湊が代わりにやっても良いんだよ」
「はっ! 悪いけど死んでもやんない」
彼の言葉を冷たく切り捨てる。

「でもああいう真似も……もう、しないよ」

何でか、彼が正しいことをしているのを見てスッキリした。俺も末期なのかもしれない。
クラスメイトが楽しそうにやってることがどうしても楽しく感じなかったのは、一応理由があったみたいだ。
「またアンタみたいなのに捕まったらたまんないもん」
「あははっ。心配ないよ、湊はもう俺のものだから」
いちいち憎まれ口を叩いてしまうけど、それすらも彼は綺麗に受け流した。
「とりあえず学校はサボっちゃ駄目だよ。次サボったらキツいお仕置きをするから」
親よりうるさい。それでも、今はもう一緒に居ることが煩わしくなかった。
「わかったよ。でも今日はもう戻らないから」
むしろ隣に居るのが心地いい。

「……また俺の家来る?」

それを疑問に思った時、俺も既にこいつを特別に思ってるんだと気付いた。


「良いのかな。二日も連続でお邪魔しちゃって」


家に着いて早々、湊は自分の部屋に日戸を連れて来ていた。
家には誰も居ない。もちろん、居たら呼んでない。二人揃って、ベッドに腰掛ける。
「アンタだけだよ。呼んでもいいって思えんのは」
今のところ、と付け加える。何かまだ恥ずかしい。
「そっか~。嬉しいな。こんな仲良くベッドインできるなんて」
まだインはしてないんだけど、気が早すぎないか。

「あのさ、一応確認しときたいんだけど……俺らってどういう関係?」
このままじゃ有耶無耶のまま、ほんとにヤるだけの関係に持って行かれそう。
それは嫌で、ハッキリさせたかった。どうせなら最高の気持ちで、そういう事をしたい。
「関係。……湊はどうしたい?」
「俺が先に訊いただろ。だから先に答えてよ」
慌てて切り返すと、彼は温かい手で頬に触れてきた。

「……俺は湊が好きだよ。だから付き合いたい」

優しいけど、熱い眼差し。
こちらの方が恥ずかしくなるほど、彼は真剣な面持ちで見つめてくる。こっちまで顔が火照って、思わず目を逸らした。
「次は湊の番。……聴かせて?」
あ。
失敗した。先に言った方が良かったかも。
何て答えるのがベストかな。分からん。
……でも、嬉しくて顔がニヤケそうだ。

「俺も。日戸に、一番近くに居てほしい」