「つまんねぇな」

無気力な声と共に、教室にジュースのビンが飛ぶ。いや、酒……だったのかもしれない。確認しようにもビンは勢い良く壁に当たって砕け落ちた。確かめる気も起きないので、視線は自分の足元に戻した。
「危ないだろ。当たったらどうすんだよ」
「そんなヘマしねえよ。そうだ、湊。帰りナンパにでも行こうぜ」
蛍光灯が全部割れた教室は馬鹿に暗い。机に伏せたり、床に寝転がってるクラスメイトの顔も、それは暗かった。
色々諦めちゃってる顔だ。


それは自分も同じ。
久津那湊(くつなみなと)はこの荒れ果てた男子高校の二年生だ。
金さえ出せば誰でも入れて誰でも卒業できる、県内で最も偏差値の低い高校に通っている。その悪評は県外にも轟き、噂通り、勉強はしたくないが働くこともしたくない、というダメ人間が時間を潰す為にここへ通っていた。
「放課後何人か連れてさ。ちょっと引っ掛けて遊ぼうぜ」
友人と呼べるのか分からないクラスメイトに、とりあえず頷いてみせる。
初めこそ戸惑ったし、嫌悪感を覚えた。けど人間は順応する生き物で、いずれは慣れてしまうもの。女遊びもその一環だ。

はぁ……。

こんな学校を選んだ自分が一番悪い。分かっているけど、いい加減嫌気がさしていた。


だからといってすぐに行動できるような性分でもない。放課後、湊は同学年の生徒数人と駅前に向かった。
「あ、見ろよ! あの子ら可愛くね」
「お、ホントだ。良いの見つけたじゃん」
人通りの少ない路地で、アイスを食べ歩いている女子高生組を見つけた。地味過ぎず派手過ぎず、確かに全員可愛い。
彼らは歓喜しながら女の子達の元へ向かった。しかし今さらながら可哀想だったかもしれない。これまでと違って、今回は真面目そうな女の子ばかりに見えたから。

「ねえ、可愛いね君達。今から俺らと遊ばない?」
「え……っ」

突然声を掛けられて、少女達は案の定狼狽えていた。
「あの、私達用事あるんで……」
「え? アイスなんか持って何の用事?」
仲間のひとりが女の子の腕を掴んだ。
「やっ、やめてください!」
誰から見ても強引な掴み方。
……良くないな。さすがにやり過ぎだ。

ため息をつきたいのを堪え、前へ出た。でもその時。

「おい、止めろって」