シーラカンスには骨がない。

一度は絶滅したと思われたそのサカナは、昔の姿を変えず、時を超えて人間の前に現れたという。幼い頃沼津の水族館で見た剥製のそれは、鱗が硬く、目がぎょろっとしていて、とても綺麗なものとは思えなかった。

約3億6000年前から生息していたとされる古代魚。
中世代白亜紀に絶滅したと思われていたのに、突然現れたシーラカンスと呼ばれる魚。青黒い鱗に白濁色の斑点が特徴的で、鋭い牙を持っている。と、幼いながらに長ったらしい説明を読みながら、不思議とじっとその顔から目が離せなかったことを覚えている。

人間の声が届かない深海で、ゆったりと泳いでいくその姿を想像したりして。

彼らは8000万年もの間、どこに隠れていたのだろう。
そして人間は、どうして彼らを見つけることができなかったのだろう。

もしかして、これはシーラカンスに限ったことではなく。

意外とこの世の中には、誰の目にも触れられず、ある日ひょっこりと顔を出すシーラカンスのような逸材が眠っていたりするのかも、なんて。

そんな淡い期待は大抵裏切られるし、今後起こりうる悪い予感というのは10分の1の確率で当たったりする。世の中は、たぶん、そんなもの。もう20を過ぎた人間には、そんなことどこかで分かってはいるのだけれど。


でも、もし、シーラカンスの産声が聞こえたら。
きっと誰だって、その存在を信じてみたくもなるものだ。