* * *
「元気にしてた?」
少し上擦った声が青空の下に響く。
「……別に。普通だけど」
「そ、そっか」
冷たい声で素っ気なく返すと、茜は動揺したように顔を強張らせた。
「あ、あの──」
「嘘だよ」
言葉に迷っておずおずと口を開いた茜の言葉を遮る。
「……本当は、結構寂しかった」
茜はきょとんと目を瞬かせると、その顔を一気に喜色に染めた。
「レイがそんな風に思ってくれてたなんて──!」
「で、あんたは何でここにいるのさ」
これ以上茜を図に乗らせまいと、話をぶったぎる。
「それはね、今日が私の命日だから、里帰りしに来たの!」
じゃじゃーんっ、と派手な効果音を自分で口にして、茜は真っ白なセーラー服の背中を見せた。そこに浮かんでいるのは、かつて浮かんでいた半透明な数字ではなく、銀色に輝く『1』の数字。
「へえ、里帰りとかできたんだ」
「命日の一日だけ、だけどね。……それでさ、レイ。ちょっと話があるんだけど」
さっきまでお茶らけていた茜が、急に顔を引き締めた。真剣な、そしてどこか緊張しているようなその面持ちに、私も茜に向き合う。
しばらく向き合って押し黙った後、茜は覚悟を決めたように息を吸い込んだ。
「──私と、友達になってください」
差し出されたその手に、その言葉に、時が止まった気がした。
それは、あの日と同じ言葉。
そして、手紙に書かれた、最期の約束。
〝もしも、レイにまた逢える日が来たら──もう一度、友達になってください〟
歪だった友情の始まりの、やり直しなのだ。
「今回は、嘘でも打算でも、レイを誰かの代わりにしたいわけでもない。ただ、〝小松怜香〟と友達になりたい。レイが大好きだから、これから先も、君の友達として一緒に居たいんだ」
──だから、お願いします。改めて、私と友達になってください。
そう言って頭を下げた茜に、私は「嫌だ」と言い放つ。
「え……」
その言葉に顔を上げ、泣きそうな顔をしている茜に、思わずくすりと笑みを溢す。そして、呆然と差し出されたままのその右手を握った。
「友達じゃなくて、親友になら、なってあげてもいい」
生きている間も、成仏するまでも、一度も面と向かっては言えなかったこと。
──君は、私にとって、親友だった。
親友だって、本当は、ずっとずっと言いたかったから。
その言葉に、茜は一瞬目を丸くして、そして、花が綻んだような笑みを溢した。
「これからもよろしくね、レイ!」
私の手を握り返した茜の瞳には、薄らと涙が光って見えた。その涙に負けない眩しい笑顔のまま、子供のようにぶんぶんと握った手を上下に振る。
そして、子供の頃、母親としたように手を握り直すと、横並びに立って隣で青空を見上げた。まるで、あの日、屋上でそうしたように。
瞬間、茜が黄金の光に包まれた。金色に光輝くそれに、銀色の『1』の数字が塗り替えられ、金に輝く『∞』の数字に変わっていく。
「こんな私だけど、ずっと守護霊として傍にいるから」
そう微笑む茜に、私は口を開く。
「ねえ、茜」
──私と出逢ってくれて、ありがとう。
青い空に、紡ぎ出した言葉が溶けていく。
──あの日のさよならの続きを、今始めよう。