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 辿り着いたのは、かつても来た霊園だ。
『西村家ノ墓』
 彼女の家族が定期的に来ているのだろう。彼女の墓は、綺麗に保たれていた。
「茜」
 久しぶりに、彼女の名前を呼ぶ。
 ──今日は、茜の三回忌だ。
 買ってきた花を供える。今年は赤いヒガンバナだ。私が花言葉なんてものを調べて花を買うのも、茜に供える時だけだ。
「茜、久しぶりだね。大学生になってからは初めてかな」
 茜は、私が大学に進学したことを知れば驚くだろうか。
 進学すると嘘を吐いた時、あんなに喜んでくれたんだから、きっと大喜びするに決まってる。はしゃいで、前みたいに大学まで着いてくるかも──。
「……なんて、ね」
 有り得ない妄想を振り払う。前を向くと決めたのに、やっぱりどうしたって少しは寂しい。
 もう今は茜がいなきゃ生きていけないなんてことは言わないけれど、茜がいたら良かったのにな、と感傷に浸ることはある。それは、歪な想いからはもう昇華されていて、多分ごく普通の、一般的な感情になっている。私があの頃は持てなかった、大切な人が死ぬと寂しい、悲しいという、普通の人と同じ感情。それを抱けたことは進歩だと思うものの、やはり彼女を喪った寂しさは拭いきれない。
「……茜、今、どうしてるのかな──」
 感傷的な気持ちのまま、ふとそんな言葉が零れ落ちていた。
 寂しい。
 悲しい。
 苦しい。
 痛い。
 茜を喪ってから知った、誰かの死に対する普通の感情。そして。
「──逢いたいよ、茜」
 零れたその囁き程の声は、誰にも届かずに消えていく。
 ──消えていく、はずだった。
 ごう、と強い風が吹き付け、私の髪を舞い上げていく。思わず目を瞑り、風が収まるまで待つ。
 そして、目を開いた──その時。
「レイ」
 聞き覚えのある声に、息が止まった。
 信じられない、だけどそれは、確かによく知っている、待ち焦がれていた声で。
 ゆっくりと、私は振り向いた。
 幻想のような、都合の良い夢のような、そんな世界を壊さぬように。
 そして、目の前に現れたその姿に、声も出さずに瞠目する。
 青い空を背に、ツインテールがふわりと揺れた。
「──久しぶりだね、レイ」
 ──ずっと逢いたかった幽霊(友達)が、そこに立っていた。