私の遺骨を抱えたパパと、全てを終えて魂が抜けてしまったようなママを支えた春陽が一台のタクシーに。
 その後ろにもう一台、じいちゃんとばあちゃんを乗せたタクシーが連なって、自宅へと戻る。
 玄関を開けた春陽についてリビングへと向かい、二人共同じように口を開けて、エアコンを見上げていた。
 エアコンがつきっぱなしだった。
 ママったら何日前からエアコン付けっぱなしだったのよ、なんて、とても責められないだろう。
 それだけ私のせいで気が動転してたんだもの、気づけなくてあたりまえだ。

「夏月、どこに置いてあげようか」

 パパのつぶやきに、皆が困っている。
 だって、この家には仏壇がないからだ。
 本人はもうどこでもいいんですけど?
 どうせなら勢いよく庭にでも撒いてくれてもいいんだけど、そうはいかないだろうし。

「あゆみさん、なにか折り畳みのテーブルはないかい?」
「確か夏月の部屋にあったよ。ちょっと待ってて」

 ばあちゃんの声にすら反応できずにいるママの代わりに、二階にある私の部屋に春陽が向かう。
 仕切りのない十二畳の部屋、その半分が私、もう半分が春陽の部屋だった。
 成長したら、仕切れるようになっている子供部屋は、今も繋がっているまま。
 ベッドと机以外、ほぼ何も置かれていない春陽の部屋。
 それと鏡合わせになっているような私の部屋の隅っこに、小さな折り畳みテーブルがあるのを春陽は覚えていたようだ。

『ごめんね、手間かけちゃって』
 
 折り畳みテーブルを手にし部屋を出ようとするその背中に声をかけると、何かに気づいたように、春陽は立ち止まった。
 ゆっくり振り返り、首をかしげてからまた歩き出す。

「じゃあ、ここに置いてちょうだい」

 ばあちゃんの指示でリビングの隣の和室に春陽がテーブルを広げる。

「お仏壇が来るまでは、ここでいいかね? なっちゃん」

 パパの手から受け取った骨箱を、ばあちゃんは大事にそうにギュッと抱きしめてから、じいちゃんに手渡す。
「なっちゃん、なんでこんなに軽くなっちゃったかなあ」

 じいちゃんも顔をくしゃくしゃにして抱きしめながら、まるで私の頭をなでるようにしてから、そっとテーブルの上に置く。
 やだな、もうっ! 私ってば愛されてたんじゃん! じいちゃんもばあちゃんも私のこと大好きじゃん!
 そう思ったら今更自分が死んだ事実が悲しくなってきて驚く。
 涙って死んでも流れるんだ。
 誰にも見られないことをいいことに鼻水を垂れながらグズグズと泣く。
 どこからかパパが花瓶を見つけてきて、斎場からいただいてきた仏花を供え、私の好きそうなお菓子を笑顔の写真と共に置いてくれる。
 その間、ママはリビングのソファーに埋もれるように腰かけているだけで、その様子をばあちゃんも、じいちゃんもどうしていいやらと困ったように見つめていた。