全ての作業が終わったあと、私のスマホの電源を切り終え歩き出した春陽の表情は暗かった。

『だから言ったじゃん。見ても何も面白くないよって』
「そういうことじゃない!」

 炎天下の中、立ち止まった春陽は人目も憚らず泣き始めた。

「人、一人、死んだってのに。私の妹なのに。別に関係なくないって、どういうことよ! 葬儀の話より、旅行のお土産の話? それから夏月がいたのに、ちゃんと存在したのに、ずっと無視してた! なんてヒドイことされてたのよ、夏月ってば!!」

 わーっとその場にしゃがみ込んで、背中を丸めて泣く春陽に太陽がサンサンとあたる。

『春陽、立って! お願いだからせめて日陰で泣いて』

 私のことを思う気持ちは痛いほど伝わってるけど、そんなことより春陽の白い肌がジリジリと赤く焦げていくみたいで心配になる。
 周囲は道端で一人小さくうずくまって泣いている春陽を気味悪げに見ていくだけだし、私は声しかかけられないし、と困っている時だった。

「大丈夫ですか? 具合、悪いんですか?」

 彼女は春陽に持っていた日傘を掲げてくれる。

「すぐ側にベンチがあるんでそこまで移動しましょう。お水、今買ってきたんで」
「あ、いえ、その」
「立てますか? ゆっくりでいいですよ」

 どうやら春陽がうずくまっているのを熱中症と勘違いした彼女は冷たいペットボトルを買って助けに来てくれたらしい。
 そういう子だ、そういう優しい子なんだよ。
 春陽は自分が熱中症と勘違いされていることに気づき、慌てて首を振ろうとするも有無を言う間もなく抱き抱えるように立たせてもらって。

「大丈夫ですか? 歩けますか?」

 春陽を支え移動し、木陰のベンチに座らせて持っていたハンディファンで風を送ってくれる。
 春陽は顔も上げられず動揺しているようだ。

「話せますか? もし辛いなら救急車を」
「すみません、あの、私は熱中症じゃなく、て……」

 さすがに救急車の話まで出され気まずそうに泣き顔を上げた春陽と目があって彼女は。

「……夏月……」
「えっ」

 呆然とそう呟くと、今度は春陽に負けないくらいの勢いで泣きながら。

「夏月――!」

 春陽をぎゅっと抱きしめて、ごめんね、ごめんね、と泣き始めた。
 美織、ごめんね。
 ずっと苦しかったよね。
 さっき全ての事情を知った春陽は、私の代わりのように美織が泣き止むまで抱きしめてくれた。