冷えた空気の中、テーブルの上に二つのスマホと小さな私のノートパソコン、メモ帳を並べた春陽は難しい顔をしていた。

「スマホの暗証番号教えて」
『嫌!』
「時間がないのに、まだ抵抗する気?」

 ささやかなる妹の最後の抵抗に、姉が頬を膨らます。
 気付かれぬように小さな声でいさかう双子、だがしかし勝利は姉の手に、だった。

「あ、開いた。私の誕生日で」

 勝ち誇った春陽のしたり顔に、今度は私が頬を膨らます。
 恥ずかしいから言いたくなかったのに。

「安心して、私のは夏月の誕生日だから」

 耳を真っ赤にした春陽が照れくさそうに教えてくれたから、ウィンウィンかな。

「では……」

 久しぶりに見る私のスマホの待ち受け画面は真っ黒でアイコンだけが並んでいる。
 女子高生らしくないかもしれないけれど、特に待ち受けにしたい画像がなかったんだもん。
 春陽はそれをまず機内モードに切り替えてから、私のスマホとノートパソコンを繋ぎ、ありとあらゆるファイルやアルバムなんかをダウンロードしていく。
 夕べ遅くまで春陽が調べていたのはこのやり方だった。
 いかにしてスマホを起動させずに中のものを見るか、らしい。
 機内モードにしているともう一つできるのがメッセージを既読にせず確認できることだ。

『あんまり、見ないでよ』
「八月五日より前にメッセージがあるものは見ないようにしとく」
 
 そう言うと春陽は、自分のスマホを手にし私のメッセージ内容を写メっていく。
 今、春陽はどんな気持ちでそれを読んでいるのか。
 申し訳なさでいっぱいになる。
 嫌な気持ちになってるよね、心配させちゃってるよね。
 私が死んだとは知らないカナやアヤたちとのグループメッセージが八月六日にあって。

【なんかー、誰かさん行方不明らしいよ】
【ええ? 誰かさんって、このグループ内にいる誰かさん?笑】
【そうそう、家出かな? 夏休みだし】
【面倒くさー。クラス経由で情報求められてるんだけど】

 それから八月七日の夜になって。

【やば、死んだって】
【マジで? ちょ、自殺とかじゃないよね】
【違うでしょ、きっと】
【や、でも……】
【まあ、ウチら夏休みに入ってから会ってなかったし。別に関係なくない?】
【だよね、葬儀とかどうする?】
【あたし、無理~! 明日から親と旅行だし】
【ええ、いいな、カナ! どこ行くの?】
【台湾、いいだろー! 皆にお土産買ってくね】

 それきり、誰一人もう私のことには触れなくなった。
 悔しさで身体が震えた。
 同じように春陽も肩が小刻みに震えている。