「……でね、どこがいいと思う?」
『え! あ、もう一回いい?』
「もう、今朝からおかしいよ、夏月ってば? 具合悪い?」

 私の目をじっと覗き込む春陽に首を振る。

『残念ながら具合とか痛みすらも感じない身体なんで』
「そうだった」
『で、なんの話だっけ?』
「だから、夏月のスマホの電源を入れる場所」

 そういえば、そうだ。
 電源を入れてすぐに位置情報を切ってから場所を移動して、だっけ。

『今日も暑いんでしょ、外』

 今朝の天気予報で言っていた。
 本日も熱中症に警戒して不要不急の外出を控えて下さい。
 埼玉では四十度を記録する地域もあるでしょうって。
 となると都内だって多分体温以上の気温になるだろうし、春陽の身体に耐えられるかはわからない。
 ぼんやりと外を見たら、まだ九時前だというのにギラギラとした真夏の陽ざしがカーテン越しでもまぶしい。

『やっぱさ、家にいた方がいいんじゃ』
「まだ言う? なら家で電源入れる?」

 それはダメと首を振ったら、春陽が冗談だよとニヤリと笑う。
 どう抗ったところで実体のない私にはもう止められないのだろう。

『じゃあ、昨日のコンビニ近くで電源入れて位置情報切ったら、区立図書館がその近くにあるの。その一階に、誰でも利用できる休憩所があるから、そこでどう?』
「いいかも! 図書館、涼し気だし」
『でもさ、春陽』
「うん?」
『春陽が真相知ったところで、今さら私は蘇らないわけ』
「……わかってる」
『それでも知りたいの?』

 大きく春陽が頷いた。

「夏月が私としか話せないのってなんでだと思う?」
『……双子だから? 似てるから?』
「かもね、波長が一番合うからなんだろうけど。私の役目って、最初は夏月の未練を晴らすために、かと思ってたんだ」

 私もそうなのかな、なんて思ってた。

「でも結局スマホが見つかっても夏月は消えなかった。だから、きっとまだ何かある、そう思ってる。あ、夏月に消えてほしいから、探るわけじゃないからね!! それは違うから」
『わかってるよ』

 春陽の慌てぶりに苦笑する。
 だって春陽は、そういう子じゃないもん。
 一生側にいてくれていい、なんて言いそうな姉だ。

「あの日、パパとママが離婚してなければ私はきっと夏月の側にずっといた。一緒にいても、姉らしいことはできなかったかもしれない。夏月に守られてばかりだったかもしれないけど、ずっと悔やんでた」
『なにを……?』
「夏月に、ママを任せて長野に行っちゃったこと。あの時、私も『長野に行きたくない、パパとママと四人で暮らしたい』って言えてたら、家族の形が変わることはなかったんじゃないかって。夏月一人に全部押し付けて、自分だけが逃げたみたいで」
『バッカじゃない? ずっとそんなこと思ってたの?』

 唇を噛み、私に申し訳なさそうな目を向ける春陽に微笑んだ。

『そんなこと言うなら私だって本音で伝えるけど。あの時、春陽が風邪ひいたのって私のせいなんだよ? 遠足の時だって、私が引いたりなんかするから、春陽がいつもうつってて……、苦しい思いさせちゃっててゴメン。でも、長野に行かないって決めたのは私だし。春陽には行ってほしかったの。だって春陽の身体、長野に行ってから大分元気になったじゃない?』