真夜中、春陽が寝静まった頃、机の上に置かれた二つのスマホを見比べた。
 白い方が春陽で、黒いのが私のスマホ。
 今まさに、朝まで充電をされている私のスマホ目掛けて拳を握りしめ、パンチを繰り出した。
 うん、無駄だ、わかっていたけれど。
 半透明な拳はスマホどころか机の中にまでのめり込む。
 実体を無くしたことがこんなに悔しく思うのは、死んでから初めてだと思う。

『なんで、死んでんのよ、私……』

 春陽に、いや、自分以外の誰にも見られたくないものがこの中にあることを、スマホを目にして思いだしてしまった。
 私たちのスマホは電源を落としたままでも充電できる。
 その後は電源は自分で入れなければいけない。
 充電が無くなるまで使いきって、何度もそうしてきた。
 時々……、こんなの無ければいいのに、って思ったこともある。
 でも、繋がっていたい人たちがいたから、持ち続けてきたんだ、でも……。

『春陽、泣いちゃうかも』

 常夜灯の明かりがグッスリと眠っている春陽の寝顔を仄かに照らしている。
 小さなころから変わらない寝顔を眺めていると、幼いころの記憶が甦ってくる。
 雷の鳴る嵐の夜や怖いテレビを見た後、大体春陽が私のベッドに飛び込んできて震えながら眠ったこと。
 パパとママの離婚話が出ている頃もそうだったっけ……。
 この家はずっとパパ名義で、離婚してからもパパが東京に来る度に泊まっていたこともある。
 離婚してからも、いや、他人に戻ったからこそなのか、二人は顔を見合わせても以前のパパとママ、そのものだった。
 離れたことで互いを思いやれていたのかもしれない。
 お互い、それぞれに子どもを託していた結束もあったのかもしれない。
 あの頃、春陽には言ってなかったけど、パパが東京に出張に来ると、三人で大きなテーマパークや動物園に出掛けたりした。
 それは、私と離れて暮らすパパからのプレゼントみたいなもの。
 真ん中に挟まれて二人の手を握る私は楽しいけれど、ここに春陽がいないことにいつも申し訳なさを感じていた。
 もしかしたら、それはパパとママもそうで、だからこそ『春陽には内緒ね』と約束していた気がする。
 その時に感じた罪悪感は今もまだ心に残ってる。
 でも、もしかしたら春陽も気づいてたんじゃないかな。
 だから東京に来たがったんじゃないだろうか。
 ここに自分も加わりたいと……。
 カーテンの隙間から白い光が漏れてくる。
 もうすぐ朝が来ることに怯えている私がいた。
 そもそも、なんで私は幽霊になんかなっちゃったんだろうか?
 未練があるから? 未練を晴らしたら?
 いつまでこうして四人で暮らせるのかな?