「なんか、今めっちゃ独り言でかくなかった?」
「あ、えっと」

 偶然、コンビニに訪れたらしいマルが苦笑していた。
 一体いつから聞かれていたのだろうか。
 春陽も困った顔で自分の足元を見つめている。

「その、傘って?」

 夜空には月も星もあって、雨模様ではない。
 それなのに、どうして? と言わんばかりに、春陽の手にした傘を見ている。

「さっき……、夏月の知り合いだった小学生が返してくれたんです。あの日、その子に夏月がこの傘を貸したらしくて。私の事、夏月だと思って」
「どうりで、見たことある傘だなあって思ったけど。あの日って……、夏月が階段から落ちた日?」
「はい」
「へえ、そうなんだ」

 目を細めて笑うマルは、今何を考えているのだろうか。
 人に傘貸す余裕があったなら、足元気をつけるくらいできただろう、とか嫌味言われそうだけど。

「七月最後の体育の日にさ」
「はい」

 脈絡なく話し出したマルに春陽は相づちを打つ。

「俺らのクラス、三、四時限目が体育だったんだよ。あの日は夏月も体育出てて。めちゃくちゃ暑い日だったのに、外で陸上とか、汗だくになってさ。で終わってから水道で頭と顔洗ってから気付いたわけ『そういや、タオル今日忘れたわ』って。まあ、ブンブン振り払えばどうにかなるかな、なんて思って、廊下歩いてたら前から歩いてきたアイツがさ」
「夏月、ですか?」
「そう、夏月。突然、すれ違いに俺の頭にタオル被せてきたわけ。だらしないから、拭けば? って。サンキュって借りたんだけど、その後アイツ、タオルの代わりにハンカチで必死に汗拭っててさ」

 ポリポリと頬を掻きながら笑うマルに春陽も頷いて。

「わかります、そういうとこ、ありますよね。夏月って」
「そ、まあ、こんくらいなら自分が我慢すればいいかっていう自己犠牲みたいな? まあ、当人からしたら優しさとか気遣いなんだろうけど、実際それで助かってんだけど、お前はどうなの? つうさ」
「私、小さいころ喘息がひどくて。それで保育園の頃とか、休むことが多かったんです。で、ある時、親子遠足の日にそうなっちゃって。夏月だけでもママと行けばいいのに、自分も風邪ひいたから休みたいって、布団から出なかったりして。あ、もちろん風邪なんかひいてなかったですよ」
「あれだよな、夏月のそういう時って、なんか、かっこつけた感じのやつ」
「ですです、本人はさり気ないつもりかもしれないけど、全部こっちにはバレてますよ、なやつです」

 二人は顔を見合わせてとうとう噴き出した。
 お、覚えてなさいよ、春陽!
 あとでクローゼットに隠れて頃合い見計らって脅かしてやるんだから!
 マルも、マルだよ!
 なに、懐かしそうに人の恥ずかしい話語ったりするかね!
 身内にバレるのがどれだけ恥ずかしいことか!!
 ズーンと落ち込んだ私に春陽がやっと気づいたようだ。