「で、どうする? 夏月は本当に破壊してほしいの?」

 春陽はジップロックに入ったままのスマホをつまみ、私の目の前にぶら下げた。
 久しぶりに見る私の黒いスマホ、うん、見た目からしてブラックボックスだ。
 こんなものの中を見たって、誰もいいことなんかない。

『うん、お願い。一気にやっちゃって』
「……」

 しばらくスマホを眺めていた春陽が肩からぶら下げていたバッグの中にしまい込んで家の方角へと歩き出す。
 私はその隣を浮遊するようについて行く。

「最初はね」
『うん?』
「見つかったら警察に届けるつもりだったの」
『ちょ、止めて』
「そうだね、面倒くさいことになりそうだし」

 春陽の考えていたことにギョッとして慌てて止めようとしたけど、その気は無さそうでホッとした。
 ん? でも、最初はってことは、今は?

「私は、夏月のことがもっと知りたいの」
「え?」
「知りたいの。小学二年生から今まで離れて暮らしていた間、この間聞いたこと以外で夏月が何を考え、何に悩んでいたのか。私ができることはなかったのか、今できることがあるのかって」

 立ち止まった春陽が私をじっと見据えている。
 その真っすぐすぎる瞳が居心地悪すぎて。

『そんなの知ったところで、面白くもなんともないってば』
「それは見た私が決めることだもん、夏月じゃない」
『というか、プライベート侵害!! 絶対やだ』
「やだって言っても今の夏月に何ができるの? せいぜい暗闇に隠れて私を驚かすことくらいしかできないくせに」

 実体を持たない私に対し、強気な春陽がなんだかムカつくんですけど。

『横暴、横暴!』

 地団駄を踏んだふりで阻止しようとする私を、春陽はため息交じりに。

「横暴なんかじゃない。真実を探すの、夏月が死んだ夜の」

 春陽の声に反応するように、虫の鳴き声が一斉に止んで、ふと訪れた静けさの中で。

「春陽ちゃん?」

 今度はハスキーボイスに反応して、またそこらの草わらから虫の声が聞こえ始める。