「あの日、雨がすごかったでしょ、ゴリラゴウウだったし。だからママが心配して途中まで迎えに来てくれたんだよ。それでお姉ちゃんに傘を返そうって、コンビニに引き返したの」
「え?」
「そしたら、お姉ちゃん、コンビニから出てきて、透明な傘持って走っていったでしょ。僕、何度も呼んだのに」
きっと雨の音でマヒロくんの声はかき消されてしまったんだ。
私はそれに気づけずに、目的の場所に向かって走っていた。
「お姉ちゃん、コレ、落としていったんだよ。早く返してあげなきゃって思ってたのに、ずっと会えなくて。でも僕ね、濡れないようにすぐに拾ったから! だから、きっと大丈夫だよ、電池は切れちゃったけど」
そう言ってリュックの中から取り出したのは、ジップロックに入っている私の――。
「スマホ……」
「スマホって大事なものなんだよね? お姉ちゃんに、木曜日に会えるって思ってたんだ。でも会えなくて……、ごめんなさい。もっと早く返せなくて」
申し訳なさそうに春陽にスマホを渡したマヒロくん。
「ありがとう、大事に持っててくれて。お姉ちゃんも嬉しがってる」
「え?」
「あ、ううん、お姉ちゃん、すごく嬉しいよ! 見つかって良かった。本当にありがとう!」
パアッと花開くように笑ったマヒロくんの前歯はもうすっかり生えていて、それを見れたことがとても嬉しくなる。
その内コンビニに向かって歩いてくる女性が春陽に向かってペコリと頭を下げると。
「ママ、ただいまっ! お姉ちゃんにちゃんと渡せたよ」
何度か顔を合わせたことのあるマヒロくんのママが春陽の前まで歩いてくると頭を下げる。
春陽も大きく頭を下げ返して。
「ありがとうございます! 探してたんです! マヒロくんが大事に保管してくれていて本当に良かったです!!」
「遅くなってすみません。気づいて取りに来るかもとコンビニに預けようとしたんですが、ちゃんとご本人の手に渡るのかも心配で。警察に渡しても電源が入ってない以上、どうなるんだろうかって。落とした人がわかっているだけに、ちゃんと手渡した方がいいんじゃないかな、と保管しておりました。傘も、ずい分長いことお借りしてしまって」
マヒロくんのママが春陽に向かって何度も申し訳なさそうに頭を下げると春陽も同じように下げ返す。
マヒロくんは二人をそんな二人を見比べながら、ニコニコしている。
「またね、お姉ちゃん!」
ママと手を繋ぎ、歩いて行くマヒロくんが見えなくなるまで何度も手を振っている。
「じゃあね、マヒロくん! 本当にありがとうね」
またねと言い返せないのは春陽なりの優しさだろう。
もう一度会えるかどうかもわからないのは、私ではないから。
自分が私のフリをした春陽であることは伏せたままだから。
『ウソつかせてごめんね』
「……、ああいうウソならいいんじゃないかな」
ポツリとつぶやいた春陽は寂しそうに笑う。
「え?」
「そしたら、お姉ちゃん、コンビニから出てきて、透明な傘持って走っていったでしょ。僕、何度も呼んだのに」
きっと雨の音でマヒロくんの声はかき消されてしまったんだ。
私はそれに気づけずに、目的の場所に向かって走っていた。
「お姉ちゃん、コレ、落としていったんだよ。早く返してあげなきゃって思ってたのに、ずっと会えなくて。でも僕ね、濡れないようにすぐに拾ったから! だから、きっと大丈夫だよ、電池は切れちゃったけど」
そう言ってリュックの中から取り出したのは、ジップロックに入っている私の――。
「スマホ……」
「スマホって大事なものなんだよね? お姉ちゃんに、木曜日に会えるって思ってたんだ。でも会えなくて……、ごめんなさい。もっと早く返せなくて」
申し訳なさそうに春陽にスマホを渡したマヒロくん。
「ありがとう、大事に持っててくれて。お姉ちゃんも嬉しがってる」
「え?」
「あ、ううん、お姉ちゃん、すごく嬉しいよ! 見つかって良かった。本当にありがとう!」
パアッと花開くように笑ったマヒロくんの前歯はもうすっかり生えていて、それを見れたことがとても嬉しくなる。
その内コンビニに向かって歩いてくる女性が春陽に向かってペコリと頭を下げると。
「ママ、ただいまっ! お姉ちゃんにちゃんと渡せたよ」
何度か顔を合わせたことのあるマヒロくんのママが春陽の前まで歩いてくると頭を下げる。
春陽も大きく頭を下げ返して。
「ありがとうございます! 探してたんです! マヒロくんが大事に保管してくれていて本当に良かったです!!」
「遅くなってすみません。気づいて取りに来るかもとコンビニに預けようとしたんですが、ちゃんとご本人の手に渡るのかも心配で。警察に渡しても電源が入ってない以上、どうなるんだろうかって。落とした人がわかっているだけに、ちゃんと手渡した方がいいんじゃないかな、と保管しておりました。傘も、ずい分長いことお借りしてしまって」
マヒロくんのママが春陽に向かって何度も申し訳なさそうに頭を下げると春陽も同じように下げ返す。
マヒロくんは二人をそんな二人を見比べながら、ニコニコしている。
「またね、お姉ちゃん!」
ママと手を繋ぎ、歩いて行くマヒロくんが見えなくなるまで何度も手を振っている。
「じゃあね、マヒロくん! 本当にありがとうね」
またねと言い返せないのは春陽なりの優しさだろう。
もう一度会えるかどうかもわからないのは、私ではないから。
自分が私のフリをした春陽であることは伏せたままだから。
『ウソつかせてごめんね』
「……、ああいうウソならいいんじゃないかな」
ポツリとつぶやいた春陽は寂しそうに笑う。