夕闇の中で浮かび上がるコンビニの灯り。
 マルの家からの帰り道、必ず私はここに立ち寄っていた。
 特に用がなくても、暗闇に浮かび上がる灯りに群がる蛾のような心境で、ついフラフラと立ち寄っては窓際に並べられている本を読んだり、新商品をチェックしたりしていた。
 あの日もきっとそうだったんじゃないかな?

『入ってみる?』

 クイと親指で示した私の仕草に春陽は立ち止まりコクンと頷いた。
 コンビニの駐車場を歩き出す私たちの背後で車が止まる音がして振り向くと、黄色いバスが止まり、中から一人の男の子が降りてきた。
 あれ? 見覚えのある顔に目をこらす。
 同じように私たちの方を見て立ち止まった男の子は、一目散に春陽目掛けて走って来る。
 初めて会う男の子が突進してくる様子に春陽は驚いていたものの。
 
「傘のお姉ちゃん? やっと会えた! こんばんは!」

 春陽はそれを聞き、少年と知り合いなのかと問いたげに私をチラリと見る。
 頷き、少年の側に行き、撫でる仕草をしながら彼のことを春陽に紹介した。

『この近くに住んでる男の子でさ、スイミングスクールの帰りなんだわ。小学校二年生のマヒロくん。確か月曜日と木曜日、週に二回ほど、このくらいの時間にここで会うんだよ。春陽、私のフリしてあげてくんない?』
「え?」
『だって時々会っていたお姉さんが死んだなんて、小学校二年生にはショッキングすぎるじゃない?』

 春陽は私の言いたい事が伝わったみたいで、わかったと小さく頷いて。

「マヒロくん、プールの帰り? 久しぶりだね」

 笑顔で良い感じの返事をしてくれたことに一安心。
 マヒロくんも、春陽のことを私だと思い込んでいるようで何の疑いも持たずに笑って。

「良かった! 今日こそ、お姉ちゃんに会えるかなって、ずっと持って歩いてたんだ。傘、返さなきゃって」

 そう言うと背負っていたリュックを下ろし、中から赤い折り畳み傘を出し春陽に差し出している。
 それは、いつも私が出かける時に持っていた傘によく似た……、というか、絶対に!

『私の傘だ!』

 私の呟きに、春陽はハッとしてマヒロくんの目線に合わせるようにしゃがみ込む。

「この傘って、私がマヒロくんに貸したんだよね? いつだったか、覚えてる?」
「覚えてるよ。月曜日! 八月五日だったでしょ、僕のプールの日だもん!」

 八月五日、そのワードに春陽は私を見あげた。