「パパ、ちょっとだけ出かけてきてもいい?」
 
 リビングのソファーに腰かけるママの様子を見ながら、小さな声でキッチンに立つパパにお願いをする春陽。
 あれから三日経って、少しはママも落ち着いてきたように見えるけど、黙って出かけるのは難しいのでは、とパパにお願いをしたんだ。
 夕暮れ時、これからママが一番嫌がる夜がやってくるから。

「どこに行く気?」
「……夏月が最後に立ち寄ったコンビニに……。同じ時間に行けば何かわかるかなって」

 う~んと考え込んでいたパパが渋々頷いた。

「警察に任せようって言いたいところだけど、あれからなんの進展もないし。本当はパパも一緒に行きたいけど、あゆみを一人きりにするのは危ないだろうし」

 自分のことを言われていると気付いたのか、チラリとママがこちらを振り返る。
 良からぬ商談を見られたように、パパと春陽はぎこちない笑顔をママに返している。
 さて、ここからどうする? パパ、春陽!

「ママ、夕食後にケーキ食べたくない?」
「ケーキ?」

 パパの突然の提案にママが首を傾げた。

「最近のコンビニスイーツは中々優秀でさ、すごくおいしいんだよ! 春陽、買い物頼まれてくれる?」
「ダメよ、春陽は! 買い物なら、私が」

 春陽を外に出すまいと立ち上がったママが貧血でふらつく。

「もう、ママ! ご飯しっかり食べてないから、まだフラフラするんだよ? 今夜はパパ特製の夏野菜カレーだよ、めっちゃおいしいの。野菜は長野のばあちゃんから、ママに食べさせてって新鮮なうちに送ってきたんだし。ちゃんと食べようね! それでお風呂から上がったら、三人でケーキ食べようよ! あ、夏月の分も買わなきゃだよね! あと、私はちゃんと戻って来るから、ね!!」
「待って、春陽!」
「いってきます~! パパ、ママのことよろしくね!」

 玄関まで這ってでも追ってきそうなママを振り切って春陽は外に飛び出した。

『ママ、大丈夫かなあ』
「パパに任せよう、それより夏月! 本当に何か思いだしたの?」

 そう、今夜の計画は私が持ちかけた。

『思いだした、というか思いだせる気がする』
「なに、その不確かなやつ!!」

 春陽のあきれ顔と共に電車に乗り込み、目的のコンビニへと今宵向かうのだ。