それから私は春陽のことを避けたんだ。
 自分の事情を話していないことを棚にあげて、春陽は私のことを何もわかっていないって思いこんじゃって。
 だけど、一年会わずにいたら寂しくてたまらなくなった。
 孤独な日々の中で思いだすのは春陽のことばかり。
 だから、この夏は久しぶりに長野に行くはずだったのに――。
 もう、行けなくなっちゃった、私の第二の故郷……。
 意地張らずに行けば良かったのにな――。

「夏月にいつか謝らなきゃって思ってたの。私の方から会いに来なきゃって。なのに言い出せなくてごめん。逃げちゃっててごめん」
『こっちこそ、ごめん。もっと早く話してれば良かったよね』
 
 互いに泣き笑いしながら、あの頃の自分たちに想いを馳せる。
 あの時、私が風邪をひかずにコンクールでうまく歌えていたならば。
 春陽は私と同じ高校で一緒に合唱部に入ったのだろうか、なんて。
 全ては、たられば、だ。
 もう戻らない日々なのだから――。

「私、美織ちゃんと話してみたいな」
『は?』
「話したいの、だって美織ちゃんきっと今でも後悔してると思うから」
『後悔……?』
「そう、コンクールに夏月を推薦して、そこから色々と変わってしまったこと。それに夏月の気持ちも知らせたいよ?」

 私の……?
 首を傾げた春陽が目を細めて笑う。

「夏月の親友だって聞いてます。仲良くしてくれて、ありがとうございました。あくまで夏月の姉として、そう伝えちゃ、ダメかな?」
『そ、そんなの言われたら美織が困るってば』
「でも私は知っちゃったんだもん。夏月の気持ち。美織ちゃんがいたから、学校辞めなかったんでしょ?」

 ああ、全部全部春陽にはお見通しだ。
 だって双子だもん。生まれる前から一緒だもんね。
 わかり合ってしまえたら、スルスルと互いの心の奥底までを知ってしまうんだ。

「夏月が、高校を辞めたら美織ちゃんが気にしちゃうって思ったんでしょ。それくらい大事な友達なんでしょ? だったら、ちゃんと姉として挨拶させてよね?」

 鏡のように同じ顔をしてる私たちは互いの頬に手を伸ばす。
 止まらない涙をどうにしかして拭いて上げたい一心で。
 だけど、できないもどかしさに苦笑してから、私は春陽に頭を下げた。

『美織と友達になれて嬉しかった、って伝えてくれる?』

 春陽は嬉しそうに、笑顔で頷いた。