「ごめん、夏月」
『なに?』
「私がさ『夏月と同じ部活に入りたかったなあ』なんて軽く言っちゃったこと」
『ああ、全然気にしてない。でも、嫌な言い方しちゃったよね。ごめんね』

 あの日私は確か「春陽には向いてないよ」と突き放した気がする。

「あと……、私さ『夏月はいいなあ』って言っちゃったことあったでしょ。事情も知らないで」
『私が言ってなかったんだし、仕方ないでしょ? ただあの時私も自分のことで精いっぱいで、春陽の話聞いてあげられてないよね? なにが、あったの?』

 今度は春陽の話を聞きたい。
 私だって離れている間の春陽のことを何も知らずにいた。
 中三の春休み、東京駅で見送った春陽がさびしそうにつぶやいた言葉の意味も。

『夏月はいいなあ、東京にいられて。だっけ?』
「うん……、私ね、本当は夏月と同じ中学校に入りたかったの」
『え?』
「ちゃんとパパとママに相談したよ? でも、まだその時は喘息も治りきってなかったから、中学校は長野にして高校になったらまた考えようって」
『長野……、嫌だったの? もしかして春陽も』
「ううん、私はイジメられてなんかないから大丈夫!」

 あわてて首を振り否定をする春陽に安心をした。
 だって私はいいけど春陽が誰かにイジメられるのは嫌だ、ムカつく!

「中三の春休み、東京に来た時ね、ママに伝えたの。高校は夏月と同じとこを受けたいって。そしたらママが首を横に振って『春陽は長野の方がいいんじゃないかな? 夏月の学校は、春陽には合わないと思うの』って言われちゃって……」
『ママもその頃には、私がイジメられてること気づき始めてたから、きっと』
「そうだね、そう思うと辻褄もあうんだ。でも、私すごいショックでさ。またママに捨てられちゃうのかって……。それで夏月に言っちゃったんだ『夏月はいいなあ。私、なんで健康じゃなかったんだろ? 健康ならママに捨てられることもなかった……、私、夏月になりたかった』って……」

 東京駅の中、そう言い切るとクルリと私に背中を向けた春陽。
 震える背中で泣いていることがわかったのに、声をかけられないまま春陽の手を取って改札口に向かい歩き出す。
 東京なんていいもんじゃないよ?
 私だって今すぐに春陽と代わりたいぐらいだよ。
 泣きたいのは私の方なのに、って思ってしまっていた。