『そこから、合唱部に行けなくなっちゃってさー』
「だから辞めたの?」
『そ、それが本当の辞めた理由』

 つまんなくて辞めたと春陽には言っていた。
 春陽がそれに対し、何も言わなかったのは今思えばきっと、何かを察していたから?

「あの頃から夏月が変わっちゃったなって思ってたんだ……。口数も少なくなったし、それまでは会えば私そっちのけで東京の友達と連絡取り合っていたのに」

 春陽が言っているのは、私が最後に訪れた長野での中二の夏休みのあたりを言っているのだろう。
 確かに、それまでは頻繁にグループメッセージで合唱部の美織を含めた仲良しメンバーと連絡を取り合っていた。
 だけど正月頃には、連絡を取っていたのは唯一美織だけだったから。
 春陽は私の変化に気づいていたんだね。

『同じクラスの結構な人数の子が合唱部にいてね、それまでは皆仲良かったんだ。私がコンクールで失敗するまでは』


 だけど、気づけばクラスの中でも私は浮いていた。
 美織だけが変わらず話かけようとしてくれたけれど、その度にカナたちが邪魔をしてきた。
 一番辛かったのは中三の修学旅行だった。
 美織とグループを離された挙句、無理やりカナやアヤたちの班に入れられて、修学旅行中ずっと空気のように扱われていた。
 そうして最後の夜、急にニッコリ笑いかけてきて、カナはこう言った。
「美織ね、ずっと困ってるの。あんたにソロパートを歌わせた責任感から一緒にいるしかないって。だから、あんたから離れてあげてよ」と……。
 そうか、美織困ってたんだ……。
 私と一緒にいるのは、責任感からだったのか。


「多分、それ違うよ! 私、美織ちゃんのことはよくわかんないけど。それってカナちゃんたちが夏月を一人ぼっちに追い込むための」
『うん、多分、そうだと思う。でもその頃の私はもう美織のことすら信じられなくなってた』

 違うって思いたかった、美織を信じたかった。
 だけどその反面、私と一緒にいたっていいことなんかないだろうなとも思ったから。
 
「離れちゃったの? 美織ちゃんと」
『うん、修学旅行から帰ってきてから、一度もちゃんと話せてないんだ』

 美織からは何度もスマホに連絡があった。
【今度遊びに行かない?】
【ねえ、夏月? たまには返事してよ】
【ごめんね、夏月……、あの日、私が夏月を推薦したばっかりに】
 私はそれに返信できずに既読をつけるだけだった。
【返事はもうできない、ごめんね】
 そう返したら、本当に切れてしまう気がして――。