「当分、昼間しか探せないかもしれないね」

 夕飯を半分しか食べなかったママが寝室に入り、パパは片づけなければいけない仕事があるようなのを見て、春陽と共に部屋に戻る。

『なんか、ごめん。春陽にだけ負担かけて』
「そんなの負担とか思ってないよ。私こそ、ごめんね」
『なにが?』
「夏月になにがあったのか知ろうとせず、ずっと連絡しなくて……」

 ごめんねと謝る春陽に首を横に振る。

『連絡しなかったのは私もだもん。それに、もし連絡取り合ってたとしても絶対言わなかったと思うよ、情けなくて』
「イジメられてたこと?」
『うん、なんか、かっこ悪いじゃん』

 へへっと笑ってみせたら春陽は神妙な面立ちで「かっこ悪くなんかない」と怒っているみたいにつぶやいた。

「なんで、妹がイジメられてるって知ってかっこ悪いなんて思うのよ。教えて? 誰にやられた?」

 ズイッとのめり込むようにして私に顔を近づける春陽に驚いた。
 昔は逆だったよね?
 か弱い春陽が男子にからかわれて泣いて帰ってくると、私が仕返ししなきゃと犯人捜ししてた頃をふと思い出す。

『……パパにもママにも言わないでくれる?』
「うん、私と夏月だけの秘密」

 約束と差し出してくれた春陽の指に私も半透明な自分の小指を絡めた。

『私、中学一年から合唱部の伴奏として部活に入ったでしょ』

 うちの学校は中高一貫校で合唱に強い学校だった。
 中学で合唱部に入ったら、高校に入っても外部から受験してきた子達以外はほとんど同じメンバーとなる。

『最初は歌う方として入るつもりだったんだけど、自己紹介の時にピアノやってることを言ったら、じゃあ伴奏でどう? って。ちょうど前の伴奏の方が中等部を卒業したばかりだからって』

 うんうんと相槌を打つ春陽と私は小さいころからピアノも歌も大好きだった。
 喘息もちだった春陽は歌うと辛そうな時が多く思うように声を出せないのが悔しそうだったけど。
 それでも調子のいい時は、二人でピアノを連弾しながら歌っていたのを覚えてる。

『その頃はいっぱい友達がいたんだよ。同じクラスにも合唱部の子が七人くらいいて、いつも皆でつるんでた。中でも一人めちゃくちゃ気が合う子がいて』
「それが美織ちゃん?」
『うん。なんかね、ちょっと春陽っぽいんだよね』
「私っぽい?」
『そ、おっとりしてて、天然で抜けてる感じとか、でも優しい』
「それ褒めてる?」
『褒めてる、褒めてる』
「二回言われると、そう思えない~!」

 春陽はちょっぴり不服そうに唇を尖らしている。
 小さなころから変わっていないその顔に苦笑した。