「夏月が帰って十分もしない内に雷が鳴って、すぐにゲリラ豪雨が始まってさ。まだアイツ駅ついてないよな、でもいつも折り畳み傘持って歩いてるって言ってたし……。でも、気になってたなら追いかければ良かったんだよな」
マルさんはスマホを取り出すと画面を操作し、私に向けてくる。
そこにはSNS電話での履歴。
八月五日から七日まで、夏月に電話をかけて『応答なし』となっているもの。
普通の架電ならば『電源が入ってない』というメッセージが流れるけれど、SNSの通話は相手の電源が入ってなくても呼び出し音が鳴る。
夏月の訃報が入るまで何度も何度もかけてくれたのだろう。
真夜中も朝早くの時間帯もあって、心配してくれていたんだ……。
「気づけなかったんだ」
「え?」
応答なしの嵐を、上までスクロールすると夏月からの『不在着信』と――。
【いいフレーズと歌詞浮かんだ。あとで連絡するね】というメッセージが、入っていた。
八月五日十八時四十五分。
最期に夏月が寄ったコンビニあたりでマルさんに送ったのだろうか。
「アイツさ、曲ができたら、歌をスマホに吹き込むんだよ。だからきっと夏月のスマホには、新しい曲があるはずなんだ」
マルさんの声が次に何を紡ぎ出すかわかった気がして首を横に振った。
「ないんです、夏月のスマホ。あの日からずっと」
「え? ないって? なんで?」
「わかりません、ただ……」
警察の方から聞いた話をマルさんに伝えて良いのかはわからなかったけれど、この人のことは信用できる気がした。
さっきの何度も応答なしとなっている履歴を見たら、マルさんは夏月のことを心配してくれた人なのだとわかったから。
それに夏月の相棒であることは間違いなさそうだ。
時々不貞腐れたような夏月の独り言は、信頼してる人にしか呟かないだろう言葉ばかりだもの。
「夏月のスマホ、俺も探してみるよ。多分、春陽ちゃんよりは土地勘あるし」
私もまた夏月のスマホを探していると理解したマルさんが、頷いて微笑む。
心強い味方を得た気がしてチラリと夏月を見たら、プルプルと首を横に振って私に訴えるような目をしてくる。
あ、そっか。
「あ、あの、見つかったら電源入れずに私に連絡してください! 一応、警察にも届けなくちゃいけないので」
「そっか、事件性の可能性とかもあるんだっけか。わかった、じゃあ連絡先、交換してもらっていい?」
私とマルさんが連絡先を交換している横で夏月は笑顔でナイスというように、こちらにピッと親指をたてている。
私にすらプライバシー侵害と訴えるような夏月のことだもの、相棒のマルさんにもスマホの中は見られたくはないのだろう。
マルさんは駅まで私を送ってくれた。
その途中、またあの石段を下っていると夕暮れの中献花する女の子の姿が見えた。
私とマルさんの気配に気づくと慌てて立ち上がり、逃げるように走り去っていく背中に。
「あれ? あの子って、美織ちゃんじゃ」
『美織?』
マルさんと夏月が首を傾げていた。
葬儀に来てくれた夏月の親友・美織ちゃん。
彼女にもまた夏月のことを聞いてみたい。
聞ける日があるのだろうか、とその背中を見送ってマルさんと別れて私は帰路についた。
マルさんはスマホを取り出すと画面を操作し、私に向けてくる。
そこにはSNS電話での履歴。
八月五日から七日まで、夏月に電話をかけて『応答なし』となっているもの。
普通の架電ならば『電源が入ってない』というメッセージが流れるけれど、SNSの通話は相手の電源が入ってなくても呼び出し音が鳴る。
夏月の訃報が入るまで何度も何度もかけてくれたのだろう。
真夜中も朝早くの時間帯もあって、心配してくれていたんだ……。
「気づけなかったんだ」
「え?」
応答なしの嵐を、上までスクロールすると夏月からの『不在着信』と――。
【いいフレーズと歌詞浮かんだ。あとで連絡するね】というメッセージが、入っていた。
八月五日十八時四十五分。
最期に夏月が寄ったコンビニあたりでマルさんに送ったのだろうか。
「アイツさ、曲ができたら、歌をスマホに吹き込むんだよ。だからきっと夏月のスマホには、新しい曲があるはずなんだ」
マルさんの声が次に何を紡ぎ出すかわかった気がして首を横に振った。
「ないんです、夏月のスマホ。あの日からずっと」
「え? ないって? なんで?」
「わかりません、ただ……」
警察の方から聞いた話をマルさんに伝えて良いのかはわからなかったけれど、この人のことは信用できる気がした。
さっきの何度も応答なしとなっている履歴を見たら、マルさんは夏月のことを心配してくれた人なのだとわかったから。
それに夏月の相棒であることは間違いなさそうだ。
時々不貞腐れたような夏月の独り言は、信頼してる人にしか呟かないだろう言葉ばかりだもの。
「夏月のスマホ、俺も探してみるよ。多分、春陽ちゃんよりは土地勘あるし」
私もまた夏月のスマホを探していると理解したマルさんが、頷いて微笑む。
心強い味方を得た気がしてチラリと夏月を見たら、プルプルと首を横に振って私に訴えるような目をしてくる。
あ、そっか。
「あ、あの、見つかったら電源入れずに私に連絡してください! 一応、警察にも届けなくちゃいけないので」
「そっか、事件性の可能性とかもあるんだっけか。わかった、じゃあ連絡先、交換してもらっていい?」
私とマルさんが連絡先を交換している横で夏月は笑顔でナイスというように、こちらにピッと親指をたてている。
私にすらプライバシー侵害と訴えるような夏月のことだもの、相棒のマルさんにもスマホの中は見られたくはないのだろう。
マルさんは駅まで私を送ってくれた。
その途中、またあの石段を下っていると夕暮れの中献花する女の子の姿が見えた。
私とマルさんの気配に気づくと慌てて立ち上がり、逃げるように走り去っていく背中に。
「あれ? あの子って、美織ちゃんじゃ」
『美織?』
マルさんと夏月が首を傾げていた。
葬儀に来てくれた夏月の親友・美織ちゃん。
彼女にもまた夏月のことを聞いてみたい。
聞ける日があるのだろうか、とその背中を見送ってマルさんと別れて私は帰路についた。