「Harukaの歌に励まされて、二度目の高校一年生になったはいいけど、やっぱ留年してるってのは知れ渡ってたみたいで、どうにもクラスに馴染めないわけ。まあ、仕方ないよな、一個上ってだけで何か違うだろうし、それはわかるけど。でもさ、俺よりもっとクラスに馴染んでないのがいたのよ。それが夏月。クラスの誰とも喋んないやつで、正直俺も『コイツ、すげえ暗いんだろうな』ぐらいにしか思ってなかった」
「夏月が誰とも?」

 想像がつかなかった。
 だって夏月といえば家でも一番のおしゃべりで、私の二倍は口数多いし。
 それに私の三倍はコミュ力高いから、友達だってたくさんいたんだ。
 私が夏月の交友関係をリアルに知っているのは、小学校二年生までだけど、中学生に入ってからだって夏月はすごく忙しそうだった。
 いつも誰かが夏月のスマホに連絡をくれていた。
 夏月は中二の半ばまで合唱部に入っていた。
 歌う方じゃなくて小さいころから習っていた特技のピアノで伴奏者として入部したらしく、部内の仲のいい子たちと楽しそうにグループメッセージをしているのを何度も目撃したことがある。
 私はというとそんなに友達も多くなくて、東京を離れてもピアノは続けてたけど趣味の域を脱せず。
 友達も多くてピアノを生かして楽しむ夏月とは正反対だな、なんて落ち込んだこともあった。
 私が東京にいたら、夏月のように楽しそうな生活ができたのかもしれない、なんて思ったことも。
 だからこそ耳を疑った、夏月が誰とも話さないなんて。

「夏月は、その、もしかして」
「……うん」

 私が言う前にマルさんは小さく頷いた。
 その瞬間胸がギリギリと痛くなる。
 夏月は一人ぼっちだった? もしかして、イジメられていた?

「どうして、ですか?」
「ん~……、そこはあまり夏月本人がしゃべらんから聞くに聞けなくて。でも、中学の時の部活で何かあったらしくて」

 ふと思い出すのは、あの頃夏月が少しだけ静かになったこと。
 部活辞めたんだ、つまんなくて、と笑った顔が妙に引きつっていた気がしたことを。
 だけど、私もまたマルさんのように夏月のプライベートに踏み込んで聞いてあげることができなかった。
 ……もっといっぱい話しておけば良かった。

「友達は、マルさんだけですか?」
「いや、女子でも一人いたよ。ほら、昨日葬儀場にいた子。隣のクラスなんだけど、中学からの親友なんだって夏月は言ってた」
「マルさん、あの子の名前知ってますか? 連絡先とか」
「ごめん、下の名前だけは知ってる。美織(みおり)って夏月が声かけてるの見たことあるから。でも連絡先は知らないや」

 ごめんね、と謝るマルさんに私は首を横に振った。