「自暴自棄になってたんだ。だってバスケしか知らないで生きてきてさ。この先もバスケだけやってくつもりで。退院してからはずっと家に引きこもって、ぼんやりテレビみたりスマホでどうでもいいようなゲーム実況配信見たりしてさ。本当にどうなってもいいかなって思ってた。でも、ある日オススメ動画の一覧にほぼ真っ黒い画面のがあって。気になって押してみたら、それが暗闇で顔を隠して歌っているHarukaだったんだ。透き通るような声で、泣いているみたいに、だけど時々バカみたいに力強い声を出してて。画面の向こうから『私の歌を聴け、聴いて、心の叫びを知ってくれ』って言われてるみたいで、気づいたらHarukaの歌ってみた動画、全部見てたわ」

 マルさんの言う通りだった。
 私もHarukaの歌声に心を揺さぶられた気がした。
 寂しい、悲しい、辛い、怖い、助けて。
 画面の向こう側のHarukaが、自分は孤独なんだと泣いているみたいに歌うのだ。
 選曲が切ないものだからかもしれないけれど、まるで心の奥に秘めている悲鳴を歌にしている、そんな気がして。
 懐かしそうにHarukaの動画を見つめるマルさんの目には、涙が浮かんでいるように見えた。
 夏月の孤独に触れた気がして私も思わず涙ぐんだ。

「そうかと思うとさ、こういうすっげえあったかい曲も歌うんだよな」

 マルさんがリストの中から選び、流してくれたのは家族や友達、大切な人のことを想うバラード曲だった。
 夏月の優しい声が響き渡って、歌詞の一つ一つを噛みしめていたら、自然と涙が溢れ出た。
 もう二度と、夏月がこうして歌うことはない、という事実が胸を締め付けられる。
 ねえ、夏月、この歌詞をどんな気持ちで歌っていたの?
 私や、パパやママのことを考えて?
 それとも、友達のこと?
 チラリと夏月の方を見たら、膝をかかえてこちらに背を向けている姿。
 きっと夏月も泣いてるんだ、そう思ったらますます涙が止まらなくなる。
 だって私もう夏月のこと抱きしめてあげられないのに……。
 その涙も、拭いてあげられないのが悔しい。

「春陽ちゃん、ティッシュどうぞ」

 自分も目を真っ赤にし鼻をかみながら、私の方へボックスティッシュを手渡してくれるマルさん。
 ありがとうございます、と何枚か抜いて私も目をこすりながら、(はな)をかむ。

「家族が心配してくれてるのもこの曲でやっと思いだせたっつうか。だから、また学校行くか、って思えたわけよ。Haruka、いや、夏月のおかげでさ」

 ズズッと鼻をすすりながら、マルさんは必死に笑顔を作っている。
 きっとマルさんは私の知らない夏月をまだ教えてくれようと涙を止めようとしているんだ。