「アッチイ、けどすぐ涼しくなるから」
マルさんは部屋の入口にあったエアコンのリモコンを手にし、ピッとそれを起動した。
ゴオという大きな音を立てて、急激にエアコンが涼しい風を室内に撹拌し出す。
通された室内には、カラオケボックスにあるようなソファーとテーブル、そして壁面にモニターはあれど何だか機械が違った。
それはどこかで見たようなもので……。
「これと似たの、夏月の部屋にもあったような」
昨夜、夏月に触るなと言われたパソコンやスピーカー、そしてカメラのようなもの。
ポツリとつぶやく私の声に、マルさんは頷きながら。
「だろうね、これ配信用の機材だし」
ハイシン……、配信?
「配信って、もしかしてあの?」
「春陽ちゃんの考えている『配信』というのが、あの配信なら正解だよ?」
私への答えを曖昧にはぐらかし、からかうようにクスリと笑ったマルさんが、不意にモニターをつける。
「ちょっと飲み物持って来るね。春陽ちゃん、飲みたいものある? 炭酸飲料、アイスコーヒー、オレンジジュースとかお茶もあるけど」
「で、では、お茶を」
「冷たいのでいい?」
「はい」
「オッケー、じゃあこれでも見て待ってて」
そういうとリモコンをモニターに向けて、私でも知ってる有名動画サイトを検索し映し出す。
それはプロの歌手をはじめ、一般の人も利用している『歌ってみました』というサイトだった。
私も見たことがある。
『な、マル!! やめてって』
夏月? どうしたの?
今まで、しかめ面で何も言わなかった夏月が急遽騒ぎ出す。
『春陽、見ないでいいから!』
「じゃあ、ちょっとだけ待っててね、すぐ戻るし」
手を振り出ていくマルさんがドアを閉めるのと同時に、スピーカーから昨年一番売れただろう女性歌手の曲のイントロが流れ出す。
画面には、真っ暗にした部屋でキャンドルの明かりだけの空間に、深くパーカーをかぶり、目を黒い布で隠した人が映っていた。
画面の下には動画の内容が書かれている。
配信者は【Haruka】そしてこの曲名の横に【初めての歌ってみました】と書かれている。
日付は、今から一年前の夏。
『見ないでよ』
弱々しい声が隣で聞こえた。
それと同時に動画内の人が、歌い始める。
最初は震えながら消え入りそうに、でも少しずつしっかりと透き通るような歌声を響かせていた。
その歌声に驚き横を見たら、ほっぺたを大きく膨らませた夏月が私を睨んでる。
「これって夏月、だよね?」
画面の中で顔を隠し歌う【Haruka】を指さすと、悔しそうに唇を噛む夏月は、違うとももう言わなかった。
『言わないで、パパにもママにも。本当は春陽にだって知られたくなかったのに』
夏月がここに来たくない理由は、この動画を私に知られたくないからだろう。
次々と再生されていく動画を自分の手で止めることのできない夏月は、いつしか諦めてしょんぼりと体育座りをしている。
その姿を見ると申し訳なく思うのだけれど、それでも私は【Haruka】の歌声にいつしか魅了されていて、聴き入ってしまっていた。
すぐに戻ると言ったはずのマルさんがやってきたのは、【Haruka】の歌声を五曲も聞いた後のことだった。
マルさんは部屋の入口にあったエアコンのリモコンを手にし、ピッとそれを起動した。
ゴオという大きな音を立てて、急激にエアコンが涼しい風を室内に撹拌し出す。
通された室内には、カラオケボックスにあるようなソファーとテーブル、そして壁面にモニターはあれど何だか機械が違った。
それはどこかで見たようなもので……。
「これと似たの、夏月の部屋にもあったような」
昨夜、夏月に触るなと言われたパソコンやスピーカー、そしてカメラのようなもの。
ポツリとつぶやく私の声に、マルさんは頷きながら。
「だろうね、これ配信用の機材だし」
ハイシン……、配信?
「配信って、もしかしてあの?」
「春陽ちゃんの考えている『配信』というのが、あの配信なら正解だよ?」
私への答えを曖昧にはぐらかし、からかうようにクスリと笑ったマルさんが、不意にモニターをつける。
「ちょっと飲み物持って来るね。春陽ちゃん、飲みたいものある? 炭酸飲料、アイスコーヒー、オレンジジュースとかお茶もあるけど」
「で、では、お茶を」
「冷たいのでいい?」
「はい」
「オッケー、じゃあこれでも見て待ってて」
そういうとリモコンをモニターに向けて、私でも知ってる有名動画サイトを検索し映し出す。
それはプロの歌手をはじめ、一般の人も利用している『歌ってみました』というサイトだった。
私も見たことがある。
『な、マル!! やめてって』
夏月? どうしたの?
今まで、しかめ面で何も言わなかった夏月が急遽騒ぎ出す。
『春陽、見ないでいいから!』
「じゃあ、ちょっとだけ待っててね、すぐ戻るし」
手を振り出ていくマルさんがドアを閉めるのと同時に、スピーカーから昨年一番売れただろう女性歌手の曲のイントロが流れ出す。
画面には、真っ暗にした部屋でキャンドルの明かりだけの空間に、深くパーカーをかぶり、目を黒い布で隠した人が映っていた。
画面の下には動画の内容が書かれている。
配信者は【Haruka】そしてこの曲名の横に【初めての歌ってみました】と書かれている。
日付は、今から一年前の夏。
『見ないでよ』
弱々しい声が隣で聞こえた。
それと同時に動画内の人が、歌い始める。
最初は震えながら消え入りそうに、でも少しずつしっかりと透き通るような歌声を響かせていた。
その歌声に驚き横を見たら、ほっぺたを大きく膨らませた夏月が私を睨んでる。
「これって夏月、だよね?」
画面の中で顔を隠し歌う【Haruka】を指さすと、悔しそうに唇を噛む夏月は、違うとももう言わなかった。
『言わないで、パパにもママにも。本当は春陽にだって知られたくなかったのに』
夏月がここに来たくない理由は、この動画を私に知られたくないからだろう。
次々と再生されていく動画を自分の手で止めることのできない夏月は、いつしか諦めてしょんぼりと体育座りをしている。
その姿を見ると申し訳なく思うのだけれど、それでも私は【Haruka】の歌声にいつしか魅了されていて、聴き入ってしまっていた。
すぐに戻ると言ったはずのマルさんがやってきたのは、【Haruka】の歌声を五曲も聞いた後のことだった。