夏月の相棒って、どういう意味なんだろう?
 マルさんは、私が階段を上るのを何度も振り返って待っていてくれる。
 私のことを心配して、だけじゃないだろう。
 この階段で、夏月が落ちたことを忘れていないからだ。
 夏月と同じ顔をした私が、そうならないようにという気づかいだからだ。
 階段を上り切り、額の汗を拭い、見渡した先は緩やかなカーブが二手に分かれていた。

「左に行くと俺らの高校で、右に行くと練習場所。つうか、俺の家」

 マルさんの家!?
 いくらなんでも初対面の人の家に行くのは、どうなんだろう。
 二人きりは、やはり……と思ったけれど、夏月もいるし大丈夫、よね?
 夏月の顔色を伺ってみたけど、多分気分はよろしくなさそう。
 プライベートな部分に私が入るのは、嫌なのかもしれない。
 歩みを緩めたマルさんと自然に隣同士になる。
 傍から見たら二人だけ、でも私の右には夏月がいる。
 残念ながらマルさんには夏月の姿も見えてなさそうだし、声にも反応してなかった。
 パパやママでも見えないんだから、相棒さんにも見えないのかも?
 そういえば夏月の相棒って、彼氏じゃないならばどんな関係なの?
 そして練習場所? なんの練習してるの?
 私の知らない事だらけで、面食らってる。
 夏月の秘密を勝手に探るというのは、申し訳ない気もするけれど……。
 昨夜、夏月がはぐらかしたのも悪いんだからね。
 でもね、私はただ知りたかったんだよ、東京で夏月がどんな風に生きてきたのか。
 そして、どんな風に過ごしたら、友達が二人しか来ないような葬式になってしまったのか。
 そういえば、あの女の子のことを、マルさんは知っているのだろうか?
 考えをまとめていると、住宅街にある少し大きなお家の前でマルさんは急に足を止めた。

「ここが俺ん家。で、あっちが練習場所!」

 家の中には入らず、家の横を通り大きな庭に案内される。
 その庭の端っこにプレハブのような建物があった。

「あれが、俺と夏月の練習場所。あの日も、十八時過ぎまで練習してたんだ」

 あの日……、きっとそれは八月五日のこと。

「狭いけど、どうぞ」

 プレハブの扉をゆっくり開き、私の方を振り返ったマルさん。
 通されたその扉の向こうには、私の知らない不思議な空間が広がっていた。