「夏月から俺のことなんか聞いてた?」
「いえ、もしかして、夏月の彼氏、さんですか?」
『んなわけないじゃん!!』
「んなわけないでしょ!」

 ちょっと! 私が否定するのはいいのよ。
 でも、マルに言われるとなんだかムカつくんですけど。

「そういや、俺も自己紹介もしてなかったや。丸山太一です、夏月のクラスメイトで相棒、みたいなもん」
「相棒?」
『ちょっと、止めてって、マル!』

 春陽には知られたくないことだってあるのだ。
 お願い、黙って、もう家に帰れ!
 それなのに、マルは私の焦りも知らずにツラツラと話し続ける。

「うん、夏月は相棒だった。あ、それから俺、実は留年してるから一つ上なんだ」

 突然のマルのカミングアウトに、春陽は目をパチクリさせてる。
 死んだ妹の相棒は留年した金髪男、情報量が多すぎて春陽の頭がパンクしちゃわないか心配だというのに。

「あ、あの、丸山先輩!」
「待って、夏月と同じ顔で先輩とか言われると、なんか痒くなる。マルでいいよ?」
「じゃあ、マルさん」
「……マル、さん?」

 初めて呼ばれたその名称をしばらく考えていたマルはブッと噴き出した。
 私も面食らったマルの顔を見て爆笑していたら、春陽に笑うなとばかりに横目で睨まれた。

「いや、いいけどさマルさんでも。で、なに?」
「私に、教えてもらえませんか? 夏月のこと」
「夏月の、なに?」
「学校での夏月や、マルさんと相棒の夏月や、それからお葬式の時に来ていた友達らしき女の子のこととか。私、全然知らないんです。この一年四か月の間の夏月のこと」

 切羽詰まったように迫る春陽に、マルは困ったように眉尻を下げた。

「この後、時間ある? 春陽ちゃん」
「大丈夫です、夕方までに戻れれば」

 チラリと私を確認したのは、一応気を使ってのことだろう。
 どうせ、私が止めたところで、春陽はマルに聞きたいのだ。
 私の高校生活のことを……。
 気付くとまた私は制服のスカートの端っこをギュッと握っていた。
 学校のこと、春陽には知られたくなかったんだけどな。

「じゃあ、ちょっとだけ付き合って。俺と夏月の練習場所に」

 そう言って先に石段を上り出すマルを春陽は慌てて追いかける。
 数段上っては、心配そうにマルは何度も春陽を振り返った。

「大丈夫?」
「大丈夫です」

 汗を拭いながら、昔よりは体力のついた春陽が笑顔でそう答えたことに、マルも私も安心した。